二人で並んで、花に囲まれた広場の特別席に座っている間も、ずっとドキドキと胸が鳴りっぱなしだった。
 それが気になって気になって、楽しみにしていたはずの祭りも、全てうわの空。

「ほら見てくれよ。うちの父ちゃんが酔っ払ってる。これで明日は絶対寝こむから、祭りのあとは仕事になりゃしないって、毎年母さんに叱られるんだよな……」
「そ、そう。そうなんだ……」
 楽しげにころころと笑う声が、あまりにすぐ近くから聞こえてくるので、体がこわばってしまって、指された方向に目を向けることもできない。

「あっ、セシル。それ取って……なんだろ? なんかおいしそうじゃないか?」
「う、うん……」
 身動きしようとすると肩や腕が当たるので、変に意識してしまって、せっかく運んでもらったご馳走にも、全然手がつけられない。

(どうしちゃったんだろう、私?)
 もちろんユーディアスの顔をまともに見れるはずもなく、膝の上で組んだ自分の手ばかりを見ていたセシルは、不意にドンと肩をこづかれた。

「おい。小さな『花騎士』!」
 どこかで聞いたような声に顔を上げてみると、目の前にこげ茶色の髪の大きな少年が立っている。
 セシルの家のすぐ近くに住むダニエルだった。
 三つも年上なのに、いつも何かにつけてからんでくるダニエルが、セシルは苦手だった。

「へえ……スカートよりその格好のほうが、よっぽど似あってんじゃないか? お前って、ほんとに男みたいだよなあ……もういっそのこと、男になったら?」
 日頃からよく聞き慣れていた悪口だったのに、その時、セシルの心にはダニエルの言葉がやけに重く響いた。

(嫌だな……ユーディの前で、そんなこと言わないで……)
とっさに考えてしまってから、そんな自分にハッとした。
(私……? ひょっとしてユーディのこと……?)
 けれどゆっくりと考えている暇はなかった。

「なんだよそれ! 変なこと言うなよ! こいつに……セシルに謝れよっ!」
 頭一つぶん以上も背の高いダニエルに、ユーディアスは迷うことなく、ドレスの裾をひるがえして飛びかかっていく。
 しかし――。