「男だったら、もう決まっちまったことを今さらがたがた言うな! セシルちゃんを見ろ! 文句ひとつ言わないで着替えてっだろ!」
父親に一喝され、ぶすっとふくれながら祭りの会場に現れた。
「お前のじいちゃんのせいで、俺までこんな目にあったんだからな! だいたいお前は恥ずかしくないのかよ! 男の格好なんかして……!」
怒りでえんじ色の瞳を真っ赤に燃え上がらせたユーディアスに、会ったそうそう怒鳴りつけられて、セシルは縮み上がった。
セシルだって男の子の格好が嬉しいわけではなかった。
本当はユーディアスが着ているような、ふわふわなドレスのほうが着てみたかった。
「でも……みんなが喜んでくれるから……『セシルちゃん似あうよ』って、笑ってくれるから……そんな顔見てたら、私とても『嫌だ』なんて言えないし……確かにちょっと恥ずかしいけど、それぐらい我慢すればいいやって思って……」
言葉と一緒に大粒の涙がこぼれ落ちてしまい、セシルはそんな自分に、自分でもびっくりした。
ぽろぽろと泣き出したセシルにぎょっとして、ユーディアスは駆け寄ってくる。
恐る恐る手を伸ばし、無理やりに持たされていた貴婦人用の白い絹の手袋で、セシルの頬をごしごしと力任せにぬぐった。
「ち、ちがっ。お前を責めたんじゃないんだ……! ただ……お前は女の子なのに!俺は男なのに! って腹が立って……! こんなのおかしいだろって……そう思って……!」
心持ち背伸びをしてセシルの涙を拭きながら、見事に結い上げてもらった髪がぐちゃぐちゃになるぐらいあわてて、思いついたことをかたっぱしから言葉にするユーディアスは、やっぱりちゃんと男の子だった。
ほんのりと綺麗にうす化粧され、まるで本物のお姫様のようにかわいらしくても、泣いているセシルをなぐさめようとし、すぐに自分の非礼を謝る態度は、実に男らしい。
「ごめん。お前が悪いんじゃないのに、やつ当たりして……ごめん」
綺麗な葡萄色の頭を潔く下げられて、セシルの胸はドキリと跳ねた。
(え……?何……?)
顔を上げたユーディアスは、ちょっと照れたように、長いまつ毛にふち取られた瞳を細める。
小さな顔に、花が開くような可憐な微笑が広がった。
セシルの目は、そんな彼の笑顔に釘づけになる。
「いいよ、行こうぜ。お前がそれでいいんだったら、俺だってみんながびっくりするくらい立派なお姫様をやってやる。俺だって……やれば出来るんだからなっ!」
妙なところで負けん気を起こし、セシルの手をぎゅっと握って、ユーディアスは歩きだす。
自分より背が低いユーディアスに手を引かれて歩きながら、まるでそこから火がついたかのように、セシルの全身は熱くなった。
(どうしたんだろ、私……?)
「せっかくなら、小さな姫と騎士のおかげで今年の花祭りは最高だったって、みんなに言われたいだろ? 言わせてみせようぜ!……な?」
邪気のないやんちゃな笑顔でふり返られると、ぎゅうっと胸が苦しくなり、息が止まりそうになる。
ばくばくと、もの凄い勢いで心臓が鳴った。
「う、うん」
顔が赤くなっていることをユーディアスに知られたくなくて、セシルはうつむく。
父親に一喝され、ぶすっとふくれながら祭りの会場に現れた。
「お前のじいちゃんのせいで、俺までこんな目にあったんだからな! だいたいお前は恥ずかしくないのかよ! 男の格好なんかして……!」
怒りでえんじ色の瞳を真っ赤に燃え上がらせたユーディアスに、会ったそうそう怒鳴りつけられて、セシルは縮み上がった。
セシルだって男の子の格好が嬉しいわけではなかった。
本当はユーディアスが着ているような、ふわふわなドレスのほうが着てみたかった。
「でも……みんなが喜んでくれるから……『セシルちゃん似あうよ』って、笑ってくれるから……そんな顔見てたら、私とても『嫌だ』なんて言えないし……確かにちょっと恥ずかしいけど、それぐらい我慢すればいいやって思って……」
言葉と一緒に大粒の涙がこぼれ落ちてしまい、セシルはそんな自分に、自分でもびっくりした。
ぽろぽろと泣き出したセシルにぎょっとして、ユーディアスは駆け寄ってくる。
恐る恐る手を伸ばし、無理やりに持たされていた貴婦人用の白い絹の手袋で、セシルの頬をごしごしと力任せにぬぐった。
「ち、ちがっ。お前を責めたんじゃないんだ……! ただ……お前は女の子なのに!俺は男なのに! って腹が立って……! こんなのおかしいだろって……そう思って……!」
心持ち背伸びをしてセシルの涙を拭きながら、見事に結い上げてもらった髪がぐちゃぐちゃになるぐらいあわてて、思いついたことをかたっぱしから言葉にするユーディアスは、やっぱりちゃんと男の子だった。
ほんのりと綺麗にうす化粧され、まるで本物のお姫様のようにかわいらしくても、泣いているセシルをなぐさめようとし、すぐに自分の非礼を謝る態度は、実に男らしい。
「ごめん。お前が悪いんじゃないのに、やつ当たりして……ごめん」
綺麗な葡萄色の頭を潔く下げられて、セシルの胸はドキリと跳ねた。
(え……?何……?)
顔を上げたユーディアスは、ちょっと照れたように、長いまつ毛にふち取られた瞳を細める。
小さな顔に、花が開くような可憐な微笑が広がった。
セシルの目は、そんな彼の笑顔に釘づけになる。
「いいよ、行こうぜ。お前がそれでいいんだったら、俺だってみんながびっくりするくらい立派なお姫様をやってやる。俺だって……やれば出来るんだからなっ!」
妙なところで負けん気を起こし、セシルの手をぎゅっと握って、ユーディアスは歩きだす。
自分より背が低いユーディアスに手を引かれて歩きながら、まるでそこから火がついたかのように、セシルの全身は熱くなった。
(どうしたんだろ、私……?)
「せっかくなら、小さな姫と騎士のおかげで今年の花祭りは最高だったって、みんなに言われたいだろ? 言わせてみせようぜ!……な?」
邪気のないやんちゃな笑顔でふり返られると、ぎゅうっと胸が苦しくなり、息が止まりそうになる。
ばくばくと、もの凄い勢いで心臓が鳴った。
「う、うん」
顔が赤くなっていることをユーディアスに知られたくなくて、セシルはうつむく。