「ダンに馬鹿にされるのは嫌! ……それもユーディの前で男みたいなんて言われるのは、絶対に嫌! ……でもそれを口に出すのはやっぱり怖くて……迷ってるうちにユーディったらいなくなっちゃうんだもん……それっきりもう話もしてくれないんだもん……! 悲しかった……ダンに悪口言われるのの何倍も悲しかったよぉ……!」

 いつの間にかセシルの膝の上から身を起こしたユーディアスが、目の前にいるセシルに恐る恐る手を伸ばす。
 何度かためらった末に、泣いているセシルをなぐさめるように、灰銀色の髪をゆっくりとなでた。

「そうか……ごめん」
「それに……ユーディに『花姫』のドレスが似あってるか聞かれたら、似あわないなんて嘘を吐けるがはずないよ……! 昔も今も、ユーディはかわいくって。笑いかけられたら息が止まるくらいかわいくって。私はいつだってドキドキしながら見てるのに、似あわないなんて絶対に言えないもん……!」

 熱のせいばかりではなくあきらかに、ユーディアスの顔は火が点いたかのようにボッと赤くなった。
 しかしギュッと目を閉じて、ずっと言いたかった言葉をあますことなく伝えようとしているセシルには、彼のそんな表情がわからない。

「すぐに返事できなくてあの時はごめんなさいって、謝りたかったの……それから、私のために怒ってくれてありがとうって言いたかった……ずっと言えなかったけど……やっと言えた。よかった……」

 泣き笑いのセシルの表情に、ユーディアスの胸がドキドキ鳴っているなんてことも、もちろんセシルにはわからない。

「そうか……」
 静かなユーディアスの声を聞いて、セシルはハッと我に返った。

「ご、ごめんなさいユーディ。具合が悪いのに、私ったら……! もっと悪くなったらたいへん! 寝て! もう一度ここに寝て!」
セシルは再度膝枕をするようにと、自分の太ももをぽんぽん叩いてみせた。

 しかしユーディアスはふらふらしながらも体をうしろへ引き、必死に手を振る。
 その頬が、あまりにも赤い。
「い、いいよ。大丈夫だから」

「だって……!」
「いいから……」
 不毛な戦いが続いているところに、ミュゼットがぬっと顔を出した。

「はい。持って来たよ、回復薬」
「ひいいいっ!」
 セシルばかりかユーディアスも、驚いてうしろに飛びすざる。

 五年前に、並んで祭りの中心にいた頃のように近かった二人の距離は、それで一気に開いてしまった。
 しかし二人の間に漂う雰囲気が今までより和らいでいることは、おそらく誰にだってわかる。