草の上にユーディアスがひとまず横になるように手を貸し、少しためらったあとに、セシルは柔らかな葡萄色の髪の頭を、自分の膝の上に乗せた。
 ユーディアスは驚いたように一瞬瞳を見開いたが、ぷいっと顔をそらし、セシルのするがままになっている。

「アン! ミュゼット! お願い回復薬を持ってきて!」
 二人が駆け出して行くのを見送ってから、改めて膝の上のユーディアスに目を向け、セシルは顔から火が出るような気持ちになった。

(近い! 近すぎるよ! いくら緊急事態だからって、私ったらなんでこんな大胆なことしちゃったの……?)
 今すぐこの場から逃げ出してしまいたい気持ちになったが、苦しそうに息をしているユーディアスを見ているうちに、そんな思いも吹き飛ぶ。
 じわっと涙が浮かんできた。

「ごめんなさい……私が回復系の魔法、得意だったらよかったんだけど……」
 明日からはその方面にもがんばろうと心に誓うセシルを、ユーディアスがまっすぐに見上げた。

「泣くなよ」
 あまりにも近くから、およそ五年ぶりにしっかりと見つめられて、息が止まる。

「お前が泣くのは嫌なんだ。なのに俺がいると泣かすばっかりだから、なるべく近づかないようにしてたのに……現地訓練だから放ってはおけないなんて……無理して来るんじゃなかった……今はちょっと動けないから、俺はいつもみたいにここからいなくなれない……だから泣くな……」

 何を言われたのかよくわからない。
 頭がぼうっとする。
 それなのに涙だけは勝手に次から次へとあふれてくるので、セシルは大あわてで頬をぬぐう。

「ほら、やっぱり泣かすことになっただろ……」
 落胆したように呟いたユーディアスは腕を上げて、指先でセシルの顎の先の涙をすくった。

「泣くなよ」
「だって……だってユーディが……!」
 我慢できなくなってセシルは大きくしゃくりあげた。

「ぜんぜん、私と話してくれないんだもん! 男みたいなんてみんなに言われるより……ダンに意地悪されるより……そのほうが何倍も悲しいのに! ……もう話も聞いてくれないんだもん!」
 子供のように泣きじゃくるセシルを、ユーディアスはぽかんと見つめた。

「お、おい。セシル?」
 セシル自身も、自分がわけのわからないことを言い出したとはわかっていたが、もうどうにも止められなかった。
 聞いてもらえなかったあの時の言葉。
 五年ぶんの思いが一気にあふれ出す。