「……ユーディ……」
 けれどどうにも様子がおかしい。
 いつもだったらセシルと目があった途端に、ユーディアスはさっさと背中を向けてしまう。
 それなのに見つめあったままの時間があまりにも長い。

(なんだか様子が変……?)
 そうセシルが思った瞬間に、ガクンと膝が折れるようにユーディアスが突然倒れこみそうになり、セシルは悲鳴を上げた。

「ユーディ!」
 地面に伏せた体勢からあわてて飛び起き、走り出したセシルの前に、ミュゼットがぬっと橙色の頭を出す。

「今の火炎系の魔法なんて言うの? まだ習ってないやつだよね? ねえねえ、私の閃光系の魔法とどっちが強いかな?」
 場違いにはずんだ声で、セシルより先にユーディアスに飛びつこうとしたばかりか、今にも呪文を詠唱しようとしている。

 そんなミュゼットを、猛然とうしろから追いかけて行ったアンジェリカが、間一髪で地面にひき倒した。
「何を言い出すのよ、この戦闘バカ! 持って来た魔道具も魔法薬も底をつきそうだっていうのに、これ以上魔力を消耗してどうするの! 私たちは四人組! いい? 仲間なのよ? ……しかも今、すっごくいいところなんだから、邪魔しないっ!」
 地面にしたたかに額を打ちつけたミュゼットは、わかったと小さくうめいた。

「ユーディ、大丈夫? どこか怪我したの?」
 瞳をのぞきこむように問いかけてくるセシルを、ユーディアスは邪険に手で追い払おうとする。
 けれどそんな動作さえ辛いらしく、小さくうめいて地面に膝をつく。

「ユーディ!」
 慌てて手をさし伸べたセシルは、彼がかなり高い熱を出している状態なのに気がついた。

「どうして? いつから? ひょっとして朝から具合が悪かったの?」
 矢継ぎ早に問いかけながら、彼の腕を自分の肩に回し、柔らかな草が生い茂る場所まで移動させる。

 男の子より大きいなんてと、小さな頃は嫌だった身長だが、自分の背が高かったことに、セシルは生まれて初めて感謝した。
 今となっては、ほとんどの男の子が自分より大きくなってしまったので、さほど気にしなくてもよくなったからでもあるが――。