「うっ、お化け電気なまずっ!」
 勢いをそがれたミュゼットは、助けを求めるようにアンジェリカに目を向ける。
「ど、どうしよう……?」
「知らないわよっ!!」
 アンジェリカが得意としているのもまた、水流系の魔法だった。
 水に住むなまずには、やはり効果があるとは思えない。

「ルーシーがいたら、地石系の魔法をかけてくれるんだけど、今日は別行動だもの!」
 アンジェリカの叫びを聞きながら、セシルは首を振った。

(ルーシーはいない……魔道具が入っている荷物袋も、さっきの場所に置いてきてしまった……だったら!)
 セシルは立ち上がり、顔の前で両手を組んだ。

「出でよ、女神の加護の力、魔法の盾!」
 攻撃が得意ではないセシルが、自分と仲間の身を守るために積極的に学んでいる防御魔法。

 ここに来るまでにこれほど大きな敵には出会わなかったし、果たしてどれほどの効果があるのかもわからないが、何もしないでこのままやられるよりはずっといい。

 三人の前に作り出された半透明の丸い魔力の板は、なまずが放った電気をギリギリのところで防いだ。
 しかし板を魔力で支えるセシルが受けた衝撃は、あまりにも大きい。
 崩れ落ちそうになった体を、アンジェリカとミュゼットが両側から支える。

「「セシル!」」
 継続的な魔法を使うには、膨大な魔力を消費する。
 セシルが使った防御魔法は、まだまだひよっこの学生が長い時間使えるようなものではない。

「ちょっと大丈夫?」
「無理しないで!」
「だって……そんなこと言ったって……!」
 盾が消えた瞬間、なまずの電流に三人が感電することは目に見えている。

 セシルは自分が持つ魔力の全てを注ぎこむほどに集中して、自分たちの前に盾を張り続けた。
 しかし、それでも、そう長くはもたない。

(ダメだっ! もうダメ!)
 ブルブルと震える腕も足も感覚がなくなり、なし崩しに倒れてしまいそうになった時、背後から鋭い声がした。

「お前ら、とりあえず伏せろっ!」

 声に従って三人がその場に突っ伏すのと同時に、真っ赤な炎のかたまりが頭上を駆け抜ける。
 水際まで来たところで、いったん勢いを失いそうになったが、
「くっそう! 形あるものは全て塵に帰す、燃やし尽くせ火炎の刃!」
呪文の詠唱で火勢を増し、飛び散る水しぶきを蒸発させながら、無理やりお化け電気なまずまで到達してしまった。

 ひげの先と皮膚の一部を焼かれたなまずは大きく体をくねらせて、出てきた時と同じように水幕に包まれ、水の中へと帰って行った。

 バシャーン

 最後に尾びれを水面に打ちつけた音があたりに響き渡り、それが消えて、もとの平穏な静けさが戻ってから、ようやくセシルはつめていた息を吐き出した。
 恐る恐るふり返って、自分たちを救ってくれた声の主を確認する。

 思ったとおり、肩で大きく息をしながら立ち尽くすユーディアスの姿が、はるか後方にあった。