「ねえセシル……五年もしつこく思っているのに満足に会話もできないなんて、これってもうぜんぜん可能性ないわよ。いいかげん諦めたら? って……いつ言おういつ言おうって、私ずっと思っていたの……!」

 あまりにも真正面から痛いところを突かれ、セシルはうっと胸を押さえた。
「そ、そう……アンったらそんなふうに思ってたんだ……うん。やっぱりそうだよね……私だってそう思うよ……」

「だからこれは、いいきっかけなのよ。きっとそうなのよ。私達の作ったそれがもし本当に効いたなら、セシルは絶対になれないはずだった両思いになれる! もし効かなくっても、これを機に新しい一歩を踏みだせる! こんなにいいことはないじゃない? そうでしょ?」

 セシルの目には到底見えない輝かしい未来を、しっかと見据えるかのように、アンジェリカの表情は実に生き生きとしている。
 どうして彼女はいつも、こんなに活力に満ちているのだろう。
 セシルはうらやましく感じずにはいられない。

「そうかな……そう……なのかな……?」
 迫力と勢いに押されて、ついつい思ってもいなかった言葉が口から出てしまった。

 途端、セシルの細い二の腕を、アンジェリカとミュゼットががっしりとつかむ。
「それじゃ、現地訓練の間に、なんとかするわよっ」
「よおーし! しゅっぱーつ!」

「…………え?」
 セシルを引きずるようにしながら、アンジェリカとミュゼットは、もう見えなくなろうとしているユーディアスの背中を追って歩き始めた。

「うまくいくといいわね。がんばってね……ふふっ」
ルーシーメイは健闘を祈るようにひらひらと手を振って三人を見送る。

「こ、この訓練の間にっ? ちょ、ちょっと待って!」
 のっぴきならない状況に気付いたセシルが、あわてて逃げようとしても、もう遅い。

 エルフォンド魔法学院創立以来の優等生と言われているアンジェリカ。
 自由人だが、実は桁外れに大きな魔力を内に秘めていると噂されるミュゼット。
 学院で学ぶ以上の呪文を、すでに知っているらしい知識の宝庫ルーシーメイ。

 同じように魔法学院に通い、魔法を学んでいるとは言っても、ごくごく平凡で一般的な生徒のセシルが、そんな三人を相手にしてかなうわけがない。

「ええええっ! そんなああああ!」
 悲鳴もむなしく、セシルは現地訓練以上に辛い苦境へと、二人に無理やりひぱっていかれた。