祭りの日から五年。
 十五歳になった今も、セシルはまだユーディアスにきちんとあの時のことを謝れていない。
 なにしろ、会話自体がそもそも成り立たないのだ。

 三年前、ユーディアスが同じ魔法学院に進学すると聞いた時には、これで少しは歩み寄れるのではないかと期待もしたが、それも結局、ぬか喜びに終わった。
 学院で学ぶようになってからも村にいた頃と同じように、ユーディアスはあからさまにセシルを避けてばかりいる。
 それはもう――どうしようもないほどに。

(今さら仲良くなんかなれっこない……そんなことはわかってる。もうあきらめてる……でも……!)
 どこにいても何をしていても、セシルの目は勝手にユーディアスの姿を探してしまうのだ。

 他の人と談笑している姿を遠目に見る。
 ただそれだけのことが、本当に嬉しい。

 あの笑顔が自分にだけは向けられないと思うと、胸を締めつけられるくらい切ないのに、どうしてもやめられない。
 無意識に向かってしまう視線は、意志の力などではとても止められない。

(せめてあの時のことをちゃんと謝れたらな……無理だよね……ユーディは本当は、もう私の顔だって見たくないんだろうし……)
 考えていると、どうしようもなく胸が痛くなってきた。
 じんわりと浮かんだ涙がこぼれないように、セシルはしばらく目を閉じ、もう一度ゆっくりと開く。

その瞬間――。

「使っちゃいなよ。例のもの」
 ぬっと突然目の前にミュゼットの顔が現われ、とてつもなく驚いた。

「きゃああっ!」
 橙色の長い髪を今日は耳の上で二つのお団子に丸めたミュゼットは、せいいっぱい背伸びをして、ずずいとセシルに顔を近づける。

「早くしないと使用期限が切れちゃうよ。だって恋愛魔法薬は……」
「な、何の話をしてるのかしらっ? そんなに大声で!」
 猛烈な勢いで二人の間に割って入ったアンジェリカは、飛びつくようにしてミュゼットの口をふさいだ。

「誰が聞いているかもわからないのに、そのものズバリの名前を出さないでっ! アレを作ったことは秘密! あくまでも私達だけの秘密だったでしょう!」

 大量に怒気を含んだひそひそ声に、ミュゼットはああそうかと、四人で誓った約束をたった今思い出したようだった。

「使用期限は七日程度って、本に書いてあったわ。あの日からもう三日が過ぎたから、残りは四日というところね……ふふっ」
 今日は別行動のルーシーメイが、金茶色の長い髪を耳にかけながらふんわりと微笑む。

「う、うん。使用期限ね。わかってる……わかってはいるんだよ……?」
 自分を見つめる三対の目から、あきらかに急かされているような雰囲気を感じて、セシルは一歩、二歩と後ずさった。

「でも、今日は持って来てないの……寮に忘れて来ちゃったみたい。私って本当にドジだから……ハハハ。ごめんね」
 乾いた笑いを浮かべるセシルの目の前に、ミュゼットはすっと紫色の小瓶をさし出した。

「うん。そうみたいだから、持って来た。はい」
 できることならうやむやにしてしまいたくて、薬品棚の一番奥にしまいこんでいた小瓶と、こんな場所で再会することになってしまい、セシルはもう笑うしかなかった。

「あ、ありがとうミュゼット……助かったわ……ハハハ……」
 力なく小さくなっていく声に、アンジェリカは、はあっと大きなため息をつく。