真名は翌日から大学の図書館に籠もるようになった。直接、院生のレポートに反論しても提出先がないので、改めて民俗学の課題レポートとして〝パワースポットとの正しい付き合い方〟をまとめることにしたのだ。

 真名が図書館で参考文献を当たっていると、本を抱えた浩子が手を振ってきた。

「真名ちゃん。何を調べているの?」
 とメガネ姿の浩子がにこにこと覗き込む。准教授とはいっても、同年代の友だちのような親しさがあった。同じ「覗き込む」という動作でも、泰明にされるのと浩子にされるのとではずいぶん違う。

「先生」と真名も笑顔を返し、パワースポットについてまとめているのだと話をした。

「パワースポット……金運向上とか多いわよね」

「ええ。あと、縁結びとか」

 真名の台詞に浩子が微妙な笑みを浮かべた。真名がその浩子の表情をもう少しだけ深く読み取れていたら――これまでの浩子との接点を振り返る余裕があったら――物語は違ったものになっていたかもしれない。けれども、まだ若い真名はそれに気づかず、浩子も適当な世間話でごまかしてしまった。
浩子を見送り、真名は調べ物を続ける。

 気がつけば図書館の閉館時間が迫っていた。

 全然気づかなかった、とひとり呟き、伸びをする。
「だいぶがんばっていたようじゃの。偉い偉い」とスクナが頭の上で褒めてくれた。

 そろそろ帰る支度をしようと真名は化粧を直す。
 化粧室から出た真名は、頭をクールダウンさせようと古い雑誌のバックナンバーを適当に手に取った。
 読むとはなしに目を通す。
 真名自身が編集に関係してきたためか、レイアウトや特集の見せ方などが気になってしまう。

 そのときふと、ある号の記事で真名の目が止まった。

〝縁結びのお守りの悲劇〟というタイトルで、こう書かれていた

『二〇一三年十月某日、藤美女子大学院生だった栗原浩子さん(二三)が構内で飛び降り自殺。手には縁結びのお守りが握られていた。恋愛のもつれか――』

 真名の顔から血の気が引いた。

 何度もその記事を読み返す。

 栗原浩子。

 さっきまで話していた准教授ではないか。

 同姓同名だろうか。

 けれども、年齢もほぼ一致する女性が同じ学内にふたりもいるだろうか――。

 真名の身体ががくがくと震えた。

 図書館内に閉館時間を知らせる曲が流れはじめた。