「そんなに急に頭を動かしたら危ないではないか」
 と文句を言いいながら、神代の衣裳を着た小さな子供が宙に浮いていた。

 小さな子供、というのは表現不足だ。

 なぜならその子供は、ものすごく小さかったのだから。

 その小さな小さな子供がふわりと机の上に降りた。

 十センチにも満たない身長の子供――これがもっとも分かりやすい表現だった。身体のサイズに合わせ、全身のパーツも服も小さい。
 子供のようなあどけない顔。目はぱっちりしているが、鼻も口も小さい。髪は角髪に結って勾玉の首飾りをしてた。

はっきり言って――かわいい。

「…………」

 あまりのことに声が出ない。お父さん、こんな式神を持ってたかしら?

 すると、小さな子供が頰を膨らませて腕を組み、抗議した。

「何を言っておるのじゃ。スクナが式神の訳がないであろう」

 どうやらお怒りのようなのだが、ますますかわいい。

「す、すくな……ちゃん?」

 その言葉を聞いたスクナは、みるみる不機嫌な表情になった。

「スクナ〝ちゃん〟だと? 最近の若い娘はものを知らなさすぎる。日本の神話くらいちゃんと勉強しておけ」

「神話……。『古事記』とか『日本書紀』とかでしょうか」

「そうじゃ、そうじゃ」

 こくこくと腕を組んだスクナが頷いている。

「あの、もしかして、その中にお名前がある――?」

「当然じゃ」

 腰に手を当てて胸を張るスクナ。普段ならいくつか思い浮かぶ名前もあるのだろうが、就活で落ち込んでいたところに、いきなり身長十センチのスクナが出現した真名にはすぐさま出てこない。喉の当たりまで出かかっているのに気持ち悪い……。

 ただ、本人が言うように陰陽師が自らの手足として駆使する〝式神〟ではないようだ。もし式神なら霊符ではなく形代で招来するはずだ。お父さんからの手紙にも〝守り神〟と書いてあったし。

 本当に神話に名前が出てくる方――八百万の神々の一柱――であってもなくても、未知の存在に丁寧に対応するに越したことはない。

 よし。謝ろう。

「申し訳ございません。不勉強で。お名前を教えていただけますか」
 と言って深々と頭を下げると、不機嫌そうだったスクナが感心したような顔つきになった。

「ふむ。素直じゃな。見たところ、心にひどい穢れがあるというわけでもない。今回だけ特別にスクナの名前を教えてやろう」

 どうやら〝正解〟だったようだ。

「ありがとうございます」

「スクナは『古事記』では少名毘古那神、『日本書紀』では少彦名命と呼ばれている男神ぞ。他にもいろんな名前で呼ばれておるが、昔話の一寸法師の原型といえばすぐに分かるじゃろ?」

「一寸法師! 分かります、分かります」

 思わず大きな声を出してしまった。そうだ、胸に何だかつかえていた名前は少名毘古那神だ。国造りに協力した知恵の神で、医薬やまじないの神とか、穀物と酒造りの神とかとしても知られている。

 それにしても、このかわいらしい男の子が、そんな偉い神さまとは……。