「実家、ですか……」
「どちら?」
「京都、ですけど――」
観光名所からは少しだけ離れている。
「あ、ご商売はされてなかった?」
「えっと、やっているような……やっていないような……。日本古来の伝統的な仕事というか……」
浩子が小首を傾げる。こんな仕草をしたら、絶対この人の方が私よりかわいい。知的なのにときどきかわいいって反則すぎない? そんなことを考えて真名は実家のことを忘れようとしたが、忘れたからといってなくなるわけではない。
真名の実家の仕事は、真名の霊能力とも関係があった。
「やってるなら、相談してみたら?」
「はあ……」
ほとんど他の人に実家の職業の話はしたことない。迂闊に話しても、そもそも信用さえしてもらえないからだった。
真名の家は代々、陰陽師をしているのである。
映画やドラマで激しい霊能合戦を行っているアレだ。
もともと、陰陽師は古代日本に実在した陰陽寮という役所に所属したれっきとした役人だった。
天文を観察し、暦を作り、吉凶を占うと共に運勢好転の秘儀を授け、百鬼夜行を退けたとされる。主として宮中にあって、あやかしや怨霊を撃退し、恨みによって生じた生霊を返し、疫病を鎮めてきた。
明治維新で陰陽寮が解体され、役人としての陰陽師はいなくなったが、仕事としての陰陽師は残った。千年経っても、悪霊も生霊も疾病もなくならないからだ。
しかし、である。
二十一世紀の日本で、実家の職業を聞かれて「陰陽師」と答えられるだろう
か。合コンのネタにもならない。行ったことないけど。
「お父さんだってかわいい娘のことは心配してくれてると思うよ?」
ええ、と曖昧に頷く真名。父に対してよりも、こんなに親身になってくれる浩子に対して、とても申し訳ない。
実家に戻って陰陽師になるという選択肢もあるのだが……それも難しい。
真名は、陰陽師に大切な百鬼夜行の悪霊やあやかしを見る力――見鬼の才――を持っているが、それ以外に何が出来るわけでもない。陰陽師としてイメージされる占いや式神を操るようなかっこいいところはまるでできず――それのみか、肝心の〝魔を祓う力〟が決定的にすっぽりと抜けているからだった。