「栗原先生に相談してみようかな」

 困ったときの栗原浩子准教授――真名の学生生活における個人的なライフハックだった。

「何か言った?」

「ううん。独り言」

「そう。ところで真名、明日の午後、暇? 駅前に新しいカフェ見つけたんだけど」
 と翔子が誘ってくれたが、今度は真名が申し訳ない表情になる番だった。

「ごめん。明日はバイトがあって……」

「月刊陰陽師」のバイトである。すると翔子は驚いた顔になった。

「バイトはじめたんだ、真名」

「うん。ごめんね、黙ってて……」

 やましいところはないのだが何だか後ろめたい気持ちがする……。

「そんなことないよ。どんなバイト?」

「えっと、お父さんの知り合いの会社で……まだ電話取ったりとか簡単なことだけだけど」

 真名の言葉を聞いた翔子がぱっと顔を輝かせた。

「いいじゃん、真名。就活を真名だけずいぶん苦戦しているみたいだったから心配していたんだけど、そういうコネが――あ、ごめん。そういう伝手があったなら安心じゃない」

「コネとか伝手とかそう言うのじゃなくて。就活でうまく行かないのはバイト経験もないからじゃないかって、お父さんが勧めてくれて」

「なおさらいいじゃない。この御時世、無理に就活するより紹介された先がよかった、なんてこともあるかもしれないし。それこそ〝ご縁〟じゃない?」

 翔子の言葉を聞いて、真名の頭上のスクナがうんうんと頷いている。

「その子の言う通りじゃ。その子の方がよほど陰陽師っぽいことを言っておるではないか」

(まさかとは思いますが、スクナさまが何か呪なりインスピレーションを下ろすなりしていませんよね)と真名が心の中で尋ねた。スクナは、そんなわけないじゃろと笑っている。

 真名は考えた。

「月刊陰陽師」の仕事は、まったく嫌いな仕事というわけではない。とはいえ、まだ本格的な取材や長い記事を書いたことはないけど。この状態で決断するには不安があった。

 しかし、考えてみれば就職活動とはそういうものだ。二時間弱の会社説明会と三十分程度の面接。面接が何次かあるとはいえ、一生を左右する就職を決めてしまうのである。就活前に五日間のインターンシップをしたこともあるが、正直、お客さんで終わってしまった。

 それと比べれば「月刊陰陽師」編集部はバイトながら長くいさせてもらえる。飲食店等ではバイトからそのまま就職というのは決して珍しくないし。