「……というわけで、『月刊陰陽師』は、陰陽師はもちろん、密教僧、修験者、カソリックのエクソシスト、その他オカルティスト全般の業界のみなさまに毎月いろいろな情報をお届けしています。ここまでオーケー?」
オフィスのミーティングスペースで昭五が真名に「月刊陰陽師」の何たるかについてレクチャーしていた。昭五は手をオーケーサインにして、真名の理解状況を尋ねている。
「はい。オーケーです」
とメモを取りながら聞いていた真名も、オーケーサインで返事した。
昭五は相変わらず上機嫌である。
真名は授業の空き具合を見ながら、月・木・金に「月刊陰陽師」のアルバイトを入れた。ただ、編集の仕事は未経験なので、まずは座学をしている。
昭五のいまの話で、「月刊陰陽師」のアウトライン――発行部数は約一万三千部、創刊した明治時代から基本横ばい。価格は一冊税抜き千二百円で、基本は年間購読をお勧めしている――といったことを知ることができた。
「事前にネットで検索したのですけど、全然ヒットしないのですね」
と真名が疑問を口にすると、昭五がマグカップのコーヒーを飲みながら答える。
「超が付くほどの業界専門誌だからね」
「〝業界〟……」狭義では陰陽師業界だろうし、広義では霊能者業界なのだろう。
「もちろん書店売りもしていないし、基本的には部外秘みたいなものだからね」
「誰かがネットに『月刊陰陽師』のことを挙げちゃったりしないのですか」
真名の疑問に昭五が楽しげに頷いていた。
「うんうん。いいねいいね。そういう質問。――結論から言うと、この雑誌の存在を外部に漏らす人は、まっとうな陰陽師なら、いない」
なぜなら、そんなことをしたら〝村八分〟にあうからだと言う。
「陰陽師の村八分って、怖そうですね」
「ははは。そんなことはないよ? ただ、霊符や式神を回してもらえなくなったり、占に必要な式盤が壊れても新しいのを用意できなくなったり、調伏の案件を一切回してもらえなくなったりするくらいさ」
いつものように昭五はにこにこしているが、言ってる内容は結構きついのではないだろうか。死活問題以外の何ものでもないだろう。
「まあ、陰陽師としてやっていけなくなるくらいには孤立させる」
とパソコンで仕事をしていた泰明が口を挟んだ。非常に的確で分かりやすいが、氷のような美青年に言われると恐怖が先に立つ。
「陰陽師同士の横の連携の象徴みたいなものだからね、うちが。陰陽師にはいわゆる労働組合はないけど、うちの愛読者同士の連携は強いんだよ」と昭五。
なるほど、と感心した真名だったが、あることに気づいた。
「ひょっとして、普通の雑誌って読者が何を買うか選びますけど、『月刊陰陽師』は逆に読者を選んでいる?」
すると、泰明がパソコンの手を休めて真名の顔を見て、面白そうな顔をした。真名がその泰明の表情に気づく前に、昭五が手を叩いた。
「うんうん。いいところに気づいたね! 『月刊陰陽師』が、ある意味での陰陽師の――あるいは霊能者の――信用保証機関みたいなものなのさ」
もしかすると自分はとんでもないところに首を突っ込んでしまったのではないかと真名は不安になった。