濡れて張り付いた前髪をかき上げて、パタパタ忙しなく動く腕を引く。しっとりと濡れた肌が手に吸い付いて癖になる。毛先から落ちる水滴が女の頬に落ちて、伝っていくのを目で追った。そこで目を瞑るから、迂闊だって言ってんだよ。
「今まで手出さなかったから、安全だと思った?」
「ちがっ、濡れたから!」
「俺別に、優しくないから」
服、脱いで。と一言告げて、自分のTシャツを脱ぎ捨てる。水分を含む布が張り付いて気持ち悪い。服の裾を握りしめて立ちすくむ姿を横目に見ながら下着一枚になって、女の服に手をかけた。
無言のまま二人分の呼吸と、布が肌を滑る音が部屋を満たす。冷え切った肌に指先を滑らせてから、バスタオルで頭から被せるように包みこむ。そのまま反転させて、背中を押した。
「お子様はさっさと寝ろ」
シングルベッドに潜り込んで、後ろから腕を回す。冷えた暗い夜は、人肌が恋しくなることもある。肌と肌が触れ合って、俺の体温が移ればいい。さみしさは、消してやる。誰でもいいんじゃなくて、いつのまにか俺を求めていることに気づいて、戻れないところまで。
「おにいさんは、やさしいよ」
「そういうことにしてやる」
余計なことはすべて捨てて、ただ眠って。人肌の心地よさに依存すればいい。それで、俺の腕の中で泣けばいいと思った。
俺からこれ以上距離を詰めることはない。公園で缶チューハイを開けて、たまにこうして抱きしめて、一緒に眠る。いつか自ら伸ばしてきたときに、その手を掴みたいと思う。
「おやすみ。また、な」