「今度は、本物の雨だ」

「転ぶなよ」



突然降り始めた雨と混ざって、どれが涙かわからなくなる。滑る手を放してしまわないよう、柔く掴んでいた指に力を込めた。相変わらずおぼつかない千鳥足に気を配りながら、悪あがきと知りつつも走り出す。女の自宅まで、あと少しだ。



「タオル持ってくるから、待ってて」



思いのほか雨脚は強く、結局二人とも頭からつま先まで濡れ鼠になった。手を引く側だった俺が、手を引かれて初めてドアの向こう側に足を踏み入れる。


いつもは、マンションの外から中に入るのを見届けるだけだったのに。警戒心というものまで雨と一緒に流してしまったらしい。ここで帰るといえるほど、俺はおまえに無関心でも無欲でもない。



「ごめん、着替えとかあればいいかなって思ったんだけど……わたしのサイズだから小さいかも」

「おまえ、迂闊すぎない?」