深夜のバイト終わり、路地裏を抜けてしんと静まった街を歩く。一本大通りから外れてしまえば、街の姿はがらりと変わる。まばらな街灯の明かりは、夜を照らすには力不足だ。
ガサガサと手元で揺れるコンビニのビニール袋には、ロング缶のチューハイが二本。先週、おいしいと言って目じりを下げた顔を思い出して無意識に同じものを手に取っていた俺は、知らず知らずのうちにあの女に毒されている。
「おにーさん」
「俺は酒じゃねえぞ」
ゆらゆら揺れる身体はブランコのせいじゃなく、アルコールのせいだとわかっている。酒飲んでからブランコに乗るなという注意は、すっかり忘れ去っているらしい。いつものことだ。
しってるよう、と語尾を伸ばした女の足元には、すでに空のアルミ缶が三本。
「これ、わたしがおいしいって言ったやつ?」
「知らない」
となりのブランコに腰を下ろして、凝り固まった首を回す。あと数時間もすれば陽が昇り、暗闇に沈んだこの場所も、明るみに出ていくことになる。早く、連れ出したい。そう思って何夜目の今日か。どうせ今日も、お行儀よく家まで送り届けて別れることになる。
へらへら笑いながらロング缶を開けて、どうでもいいことをペラペラと吐き出す口を横目に見た。どうでもいいと思いながら、何一つ忘れていない自分を笑うしかない。肝心なことは何一つ言わない唇を、塞ぎたいと毎秒思い続けている。