午前九時ジャスト。美玲は両目を開いた。
 ベッドから起き上がった美玲は、寝室を出ると洗面所へと向かう。そして、てきぱきと顔を洗い、口を濯ぐと水を止めた。
 リビングに向かった美玲の目に、トーストとベーコン、スクランブルエッグ、そしてサラダが載ったテーブルが写る。
 既に家に居ない様子だが、竜二が用意してくれた物だろう。

「いただきます」

 両手を寸分違わず合わせた美玲は、食事を開始した。
 食べ物を口に入れ、頭の中で三十回数えながら咀嚼し飲み込む。その行為を繰り返した美玲の目の前に置かれた皿は、残骸さえ残らぬ程、綺麗な空となった。

「ごちそうさま」

 食事を終えた美玲は、食器を台所に持って行き、洗い物を始めた。
 食器を全て洗い終えた美玲は、蛇口を止め、シンクに残った水滴を布巾で拭いていく。
 光沢を取り戻したシンクに別れを告げ、美玲は寝室に向かった。
 パジャマからゆったりとしたマタニティードレスへと着替え、美玲は呟いた。

「食後三十分経ったな。歯を磨く時間だ」

 再び洗面所に向かった美玲は、歯を一本一本丁寧に磨いていく。
 歯を磨き終わり、口を濯いだ美玲は、鏡に向かい歯を剥き出しにした。

「磨き残し無し」

 美玲は呟くと、荷物を持って家を後にした。
 マンションを出た美玲は、大きなお腹を抱え、ゆたゆたと歩道を歩く。
 美玲が産婦人科に向かい、十五分が経過した。

「誰か、その男を捕まえて!」

 突然、女性の声が響き渡った。