「…異常はないですね。痛む場所はありますか?」

 検診を終えた片桐は、優しい笑顔を浮かべた。

「あちこち痛いが、特に腹が痛いのだが」

「お腹ですか。手術しましたからね、傷口が痛むのでしょう」

「そうか、ときに先生。私は定期検診に向かうところだったのだ。診てはくれないか?」

 その言葉を聞き、竜二は堪えていた涙を零した。

「定期検診ですか…」

「私は現在妊娠中だ。腹の中の子供の様子を診てくれ」

 片桐は複雑な表情を浮かべ、竜二に視線を向けた。

「…俺が話します」

 竜二は静かに頷くと、美玲の手を握り締めた。

「…美玲、赤ちゃんは美玲の命を救ってくれたんだ」

「命を救ってくれたのか?命の恩人というやつだな」

 美玲は服の上から、優しくお腹を撫でた。

「…美玲はお腹を激しく打ち付けたんだ…それを俺達の…赤ちゃんが…美玲を救う為に、命掛けで助けてくれたんだ」

 竜二は歯を食いしばり、大粒の涙を流した。

「命掛けで助けてくれたのか?ということは、死んだのか?」

「…あぁ」

 竜二はそれ以上言葉が出てこなかった。

「そうか、命は永遠ではないからな。人間だけではない、全ての生物はいずれ死に絶えるのだ。それを私は学習済みだ」

「…美玲、泣いてるのか?」

美玲の瞳から流れる涙を見て、竜二は目を見開いた。

「泣く?私は目に異物が混入した時にしか涙を流した事がない。今は異物は混入していない。それよりも、先生。体が急に重くなったのだが、診てはくれないか?」

 美玲は涙を流しながら、視線を片桐に向けた。