「退け!」

 美玲は、ひったくりを働いた男により突き飛ばされた。
 歩道から飛び出した美玲の目前に、大型のトラックが迫る。
 トラックの運転手は、凄まじい音を鳴り響かせながらブレーキを踏み込んだ。
 美玲は首を傾げ、トラックを見据える。

「ドン!」

 その音と共に、美玲の体は宙に舞った。
 美玲は病院のベッドの上で目覚めた。
 目を見開いた美玲の前に、涙を流す竜二の姿が写る。

「美玲!大丈夫か!?」

 竜二は触れている美玲の手を、力強く握り締めた。

「私は何をしていた?此処は何処だ?」

「…ここは病院だ、美玲は車に轢かれたんだ…今医者を呼ぶからな」

 竜二は美玲の手を離すと、ベッド近くに設置されているナースコールを押した。

「…どうかされましたか?」

 スピーカーを通して、看護士と思われる女の声が聞こえてくる。

「彼女が目を覚めました」

「分かりました、直ぐ行きます」

 看護士との会話を終えた竜二は、再び美玲の手を握り締めた。

「車とはトラックの事か?」

 美玲はじっと竜二の目を見詰めた。

「そうだよ…痛い所とか無いか?」

 竜二は心配そうな瞳で美玲を見詰め返した。

「あちこちに痛みはある。しかし一番痛みを感じるのは、腹だ」

「…そうか」

 竜二は呟くと、涙を堪えた。

「…園山さん、失礼します」

 医師の片桐が看護士を連れ、病室に入ってきた。

「ちょっと体に触れますね」

 片桐は、美玲に掛けられている布団をゆっくりと捲った。