……これからどうしよう。
また電車に轢かれに行くわけにもいかないよな。あいつに止められるかもしれないし。
「はぁ……。死ねると思ったのに」
公園のベンチに座り込むと、俺は顔をうつ向かせて、ため息吐いた。
「何お前、そんなに死にてぇの?」
真上から声が聞こえた。
慌てて顔を上げると、さっき会った銀髪の男がいた。
「よお。さっきぶりだな」
「……何の用だよ」
「……そんなに死にたいなら、連れてってやろうか。――不老不死の世界に」
そう言い、男は牙を出して笑った。八重歯ではない。明らかに五センチ以上はある牙だ。
「ああ。魂だけじゃなく、身体ごと連れてってやるよ。不老不死の世界に」
なんだこいつは。
一体何を言っている?
「なんなんだあんたは」
「俺か? ――俺は、悪魔だ」
髪を片手で後ろに流して、男は言った。明らかにかっこつけている。
一体何なんだこいつは。本当に意味が分からない。
厨ニ病でもこじらせているのだろうか。でも牙はあるし、……本当に悪魔なのか?
でも、そんな漫画みたいなことあるわけないし。
「……あっ、お前信じてないだろ? じゃあ、これで信じるか?」
直後、男の真横に宝石のクリスタルのような透き通った色をしたドアが出現した。
「えっ」
戸惑った声を出した俺を見て満足そうに笑って、男は言う。
「……これはこの世界に絶望した人だけに見える扉だ。開けた先には、血潮にまみれた不老不死の世界がある」
「血潮にまみれた……?」
「ああ。ここは何も最初から不老不死の世界だったわけじゃない。俺がいじってそうした。だから、人々が不老不死になる前殺しとかをしてた殺人鬼とかは殺せないなら殺せないなりに楽しんでるんだ」
「……殺せないなりに?」
「察しが悪いな。殺せなくても、植物状態にすることは可能なんだよ」
「なっ……」
思わず俺は言葉を失った。
つまり命を落とすことはないが、死んだのと植物状態になるってことか?
そんなのこちらの世界と死ぬかどうかが違うだけではないか。
「あちらの世界の殺人鬼達は、見境なく人を怪我させてる。そうやって人を傷つけること自体が、奴らにとってものすごい快感だからな。人が死亡することは無いが、人が怪我をする確率はこの世界の何倍も多い」
俺は思わず男を、――いや、悪魔を思いっきり睨みつけた。