髪を染められるのを嫌がってべそをかいたら頬を何十回と叩かれ、それで俺は悟ったんだ。――自分は意志を持たない人形でないといけないんだということを。
それ以来、俺は父親に一切抵抗しないで生きてきた。それなのに、それなのになんで、売られて殺させるハメになんなきゃいけないんだよ。
なんで父親は、従順な俺を見て心変わりの一つもしないんだよ。
「くそっ! ちっくしょう!」
声が枯れる勢いで俺は喚いた。
「……事故死でもしたいな」
外人に殺されて高値で売られるよりは、その方がよっぽどマシな気がする。
「はぁ……」
ため息をつくと俺は居間に行って、用意されていた朝食を食べた。朝食はクロワッサンなどのパンとスープとサラダだ。
「うっ、ゲホッ、ゲホっ!!」
サラダとパンをたべてすぐに吐き気が押し寄せてきて、俺はトイレで思いっきり吐いた。
アルビノ狩りと言うのがこの世にはある。
アルビノなだけで、ある日突然腕を切り落とされたり、殺されて性器と四肢と鼻と舌をもぎとられたりするのを、総じてそう呼ぶらしい。
このまま親父の言いなりとして生きていたら、いつか俺もそうなるのだろうか。
本当はアルビノではないのに。
俺は二年前の誕生日の翌日から、肉がろくに食べれなくなった。食べようとすると人肌を想像してしまうからだ。
アルビノの人間は殺されても食べられたりはしない。そもそも基本人は共喰いをしない生き物だし。それが分かっていても、俺はいやでも想像してしまう。――目の前にあるのは、アルビノの人間の肉なのでなはいかと。
それに食べられることはなくても、アルビノが殺されたら死体を分解されて売られる羽目になるのは確かだ。