「ああ。そいつと過ごすことで、命軽視しなくなるといいな」

 そう言って、悪魔は笑った。

 俺はふと、今日行ったカラオケのことを思い出した。

「なぁ風兎、きたのはいいんだけどさ、何歌えばいいのかな?」
 デンモクをタッチペンで操作しながら、首を傾げた俺に、風兎は言った。

「そもそも君が前いた世界にあった曲はあるのかな?」
「それじゃん! ないんじゃね?」
「いや、僕に聞かれても困る。そもそもなんでそれ考えてなかったんだよ」
「しょうがないだろ? カラオケ行ったことないんだから! 来るのあこがれだったんだよ!」
 癇癪を起すみたいに大声を上げて俺は言う。
「それ、威張るみたいに大声出して言うことじゃないからね?」
「うるせー!」
「アハっ、アハハハハハハハ!! キミって本当にどっか抜けてるよね!!」
 風兎は突然、声をあげて笑い出した。
「それけなしてるだろ!!」
「少しね? いやあ、それにしても本当に君といると退屈しないね!」
 涙を流して笑いながら、風兎は言った。
「まあ、……面白いならよかった」
「うん!」
 そういって、風兎は元気よく頷いたんだ。

 俺は風兎と話してると、よく時間を忘れてしまう。この時間がずっと続けばいいのになって、そう思う。でも、だからといって生きたいとは思えない。前の世界にいた時ほど強くは思ってないけど、俺はまだ死にたいと思っている。