部屋に入ってから、小声で風兎は言う。
「えっ? 何で?」
「親が退学届け出しちゃってね。病気のせいで休みがちで留年を余儀なくされてたから。留年したら金も無駄にかかるだろう?」
「だからって退学はないだろ!」
 壁を叩いて、俺は大声で叫ぶ。
「……しょうがないよ。家族にとって僕はただのお荷物だから」
 俺は眉間に皺をよせ、部屋のソファにどかっと座り込んだ。

「君がそんなに怒らなくても」

「……怒るに決まってんだろ!だって本当にクソじゃねぇか!」


「……ありがとう」

 俺の頭を撫でて、風兎は笑った。

 その日の夜、俺は布団の上で寝ている風兎の頭を撫でながら、物思いにふけっていた。

 ……風兎っていつも元気に振る舞ってるけど、結構色々抱えてるんだよな。

 俺は風兎のなにもかもあきらめてるかのようなあの作り笑いはもう見たくない。

 俺があいつを元気にできるなら、元気にしたい。

 死にたいと思ってる俺に、できるかわかんないけど。


 直後、部屋の窓をコンコンと叩かれた。

 誰かと思って窓を開けると、ベランダに悪魔がいた。

「よう死にたがり。不老不死を堪能してるか?」


「お前っ!! お前なんであの日俺を異世界に飛ばしてすぐにいなくなったんだよ! 俺殺人鬼に襲われたりして大変だったんだからな?」

 思わず俺は声をあげた。


「無事だったんだからいいだろ。おかげでこんないい友達も出来たんだし」
 風兎をあごでしめして、悪魔は言う。
「……それは、否定しねえけど」
「いやー素直で結構」
 そう言って、悪魔は牙を出して笑った。