「……嫌いだよ。でも、忘れられないんだ。……置いてかれてからまだ一年しか経ってないし、ここの水道代と電気代払ってくれてるの家族だしね」
「え? お前のことほっといてるけど生活費は払ってんの?」
 眉間に皺をよせ、首を傾げて俺は言う。
「うん。病人で稼げもしないからって僕を本当に捨てるのは流石に忍びなかったんじゃない? だからそうしてるんだと思う」
「お前、本気でそれでいいと思ってんのか?」
「……いいなんて思ってるわけないだろ。でも、しょうがないじゃないか。……家族は病気が治った健康な僕しか興味がないんだ。病気の僕は、ただのお荷物なんだよ!」
 心臓に針が刺さった気分だ。
 心底吐き気がする。本当に酷い親だ。
 俺は風兎の華奢な体を抱きしめると、頭をそっと撫でた。
「……誓うよ。俺は絶対お前をお荷物だなんて思わねえ。たとえ何があってもな。
「……馬鹿じゃないの君」
「バカなのはあんたを捨てた親だよ!」
 声を上げてそう言い、俺は笑う。
 風兎は何も言わず、ただ涙を流した。

 風兎が泣き止んでから、俺はオムライスを食べた。

 食べた瞬間、甘い卵の風味が口いっぱいに広がった。ケッチャプ炒飯からは熟されたトマトの匂いやグリンピースやニンジンの香りがして、それが鼻腔をくすぐって食欲をそそる。

「美味っ! お前天才なんじゃね?」
 オムライスを食べながら、俺は思わず声をあげる。
「……美味いならよかったよ」 
 ほんの少し口角を上げて、風兎は嬉しそうに笑った。

 それから俺達は、つかの間かもしれない平和を楽しんだ。
 風兎の家で、二人で暮らすことにしたのだ。