「佳南芽、何か食べたいものある?」
スーパーを二人で回ってる途中、風兎が聞いてきた。
「んー、オムライスとか?」
「へえ? わかった。じゃあオムライス作ろうか。後はほうれん草とアスパラガスとベーコンの炒め物とか作ろうか? それともお肉とか食べたい?」
首を傾げ、上機嫌な様子で風兎は尋ねてくる。
「いや、……肉はいらない」
「嫌いなの?」
「いや嫌いじゃないけど……」
ふと、俺は十二歳の誕生日に、チキンやハンバーグを父親と一緒に食べたのを思い出した。肉が美味しいと思ったのは、きっとあれが最後だ。
今頃父親はどうしているのだろう。
パチンコでもしているのだろうか。父親は誕生日だけは毎回かかさず祝ってくれた。幼い頃は、それがすごく嬉しくて辛いことがあっても誕生日まで耐えればいいんだって考えていた。
馬鹿みたいに、本気でそう思っていた。
当時借金を抱えていた父親は俺を使ってそれを返済しようとしていたから、そのことへの感謝として誕生日を祝ってくれていただけなのに。
マズい。
父親のことを考えてたら、何か泣きそうになってきた。
「けどなに?」
涙が流れそうなのを悟られたくなくて、俺は風兎から目を逸らした。



