俺は男をちゃぶ台のそばに連れて行くと、救急箱をちゃぶ台の上に置いた。
男を床に座らせ、俺は真ん前に座って救急箱を開ける。
救急箱を開け、中にあった消毒液で男の腕に消毒をしながら、俺は言う。
「助けてくれてありがとう。あんた、名前は? 俺は井島佳南芽」
消毒をやめ、俺は男の腕に包帯を巻いた。
「僕は朝倉風兎。風に兎で風兎だ。ここで独り暮らししてる」
「独り暮らし?学生なのにか?」
「……ちよっと訳アリでね」
俺から目をそむけ、風兎は小さな声で言った。
……どうやら聞かない方がいいみたいだな。
「風兎、俺が異世界から来たって言ったら、お前信じるか?」
俺はすぐに話題を切り替えた。
「……信じるよ。あの繁華街は自分を大事にしてない人間か、あるいは認知症とかを患ってる老人くらいしか行かない場所だ。なのに君はそこにいた。その時点で、君がこの世界の理を理解してないのは明らかだからね」
俺の顔を見ながら、風兎はうんうんと頷いて言う。
「話が早くて助かる。じゃあ聞くが、この世界は一体何なんだ?」
眉間に皺をよせ、俺は言う。
「……ここは、どんな人間も死なない世界だよ。君、ハイランダー症候群って知ってる? 普通の人間と同じように歳はとるけど、どんなに歳をとっても見た目が全く変わらない症状のことだ。ハイランダー症候群の奴は死ぬ前に一気に老けこむらしい。この世界ではそれと同じように見た目が全然変わらない人間が暮らしている。ただそれと違うのは、この世界にいる人間はみんな見た目どころか、歳すらもとらないってことだ。もちろん僕も、君もね」
悪魔と同じことを、詳しい説明を加えて風兎はいった。
「人間が不老不死になった理由は?」
俺の問いかけに、風兎は首を振った。
「それは知らない。色々な説があるよ。神様や天使がくれたプレゼントだとか、悪魔の悪戯だとか」