飛んでくる包丁と拳銃の弾を交わしながら、俺は必死で男の足取りを追った。弾を交わしきれなくて、何個か掠った。致命傷は避けたけど。
 なんとか繁華街を抜けると、住宅地に出た。

 後ろを見ると、殺人鬼達はいなかった。どうやら巻けたらしい。

「痛っ!」
 直後、男が足を止めて縮こまった。
 右腕を抑えて、痛そうに顔をしかめている。
 マズい。
 腕から、もの凄い勢いで血が流れている。不老不死の世界だから出血多量で死ぬなんてことはないだろうけど、相当痛そうだ。
 俺はズボンの後ろポケットからカッターを取り出すと、それでズボンを切った。

 カッターは、リストカットをやるようになってから常に常備している。 五歳で父親に髪を染められてから、リストカットはもう毎日のようにやっている。ダメだと思うけど、やめられないんだ。

「痛むだろうが我慢してくれ」

 そう言うと、俺は右手でナイフを掴み、左手に持っているズボンの布を男の右腕に当てた。
 そして、男の腕に刺さっているナイフを力ずくで抜いた。

「痛ッ! はぁっ、はぁっ、はぁ……」

 顔をしかめ、男は声をあげる。顔が見えないから、正確にはしかめている気がしたになるが。      
 俺はズボンの布を男の傷口に当てて、強く巻いた。包帯の代わりだ。とりあえずの応急処置。こんなの気休めに死かならないと思うが、しないよりはマシだろう。

「……ありがとう。助かった」

「いや、礼を言うのは俺の方だ。庇われてなかったら俺がこうなってた」
「ククッ。それもそうだね」
 口角を上げて、男は頷いた。
 笑っているのだろうか。