就寝前のことである。

「本当に寝るのかい？」

はじめ、士郎が武雄にお願いすれば、武雄は声を上げて笑い、ふたつ返事で聞き入れた。

しかし、他人行儀になった武雄の反応に、おそらく冗談を言っているのだろうと武雄が思っていたことに士郎は気がついた。

士郎は躊躇(ためら)い、どうしようかと内心焦る。無理もない、士郎は"父さんと一緒に寝たい"と武雄に言い、一緒の布団で寝ることになったのだから。

「俺、父さんと一緒に寝たい気分なんだ」

どうにか押しきれないだろうかと願う気持ちで士郎が言った。

「そう……か」

武雄は驚き視線を彷徨(さまよ)わせて少し躊躇(ためら)う様子を見せていたが、承諾した。武雄の言葉に士郎は安堵(あんど)した。

もちろん"父さんと一緒に寝たい"というのは士郎本人の希望ではなく和哉のであり、士郎は武雄と寝床をともにすることになったのである。

現世(うつしよ)では死者は触れるものすべてを通り抜けてしまう。なので、かけ布団をすり抜けてしまう。であるから、士郎が武雄と同じ布団に入ることで空間をつくって、士郎と武雄の間に和哉が入ることで親子で寝ているという演出をする必要があったのだ。