野球をするにしてもあれが無い、と気がついて、武雄は和哉(青年)を見る。

「なぁ和哉、バットとグローブはどうした?」

和哉(青年)は指で頬をかいて天をあおぎ、視線を忙しなく彷徨(さまよ)わせた。

「え、えぇっと、持ってくるの忘れちゃった。父さん、昔つかってたバットとグローブとかない?」

「バットとグローブなぁ……」

あったにはあったが、何せ使っていたのはずいぶんと昔のことであり、それが今どこにあるのか記憶にもやがかかる。

「外で遊ぶやつだし、あそこに入ってそうじゃない?」

和哉(青年)が庭の倉庫を指差して聞く。

「見てみるか」

武雄は膝を立てて立ち上がり、二人で倉庫へ向かった。

薄暗い倉庫の中は持ち主がいない忘れ去られたガラクタのように(ほこり)がかぶっていた。倉庫は普段使わない物ばかり押し込んでいるので、そうなってしまうのも仕方がない。

しかし、倉庫の一番奥に一つだけポリ袋をかぶったものがあった。

「あれじゃない? 父さん」

そう、バットとグローブである。それらだけがポリ袋に入れられ、大事にしまわれていたのである。倉庫を出て袋から出して、それらを繊細なガラス細工に触れるように表面を撫でた。



ここにあったのか、懐かしい……。



まだ綺麗な状態であった。綺麗というには語弊(ごへい)があるが、当時のままの息子である和哉が野球をしていた頃の綺麗な状態でという意味である。

まるで時が止まってしまったかのように、武雄はバットとグローブをじっと見つめて動かない。

「父さん、早く早く!」

そう言って催促(さいそく)しながら駆けていく和哉(青年)の後を追った。

野球をしながら武雄は、願いにも似たことを思う。



この時間が永遠に続けばいいのに───と。



結局、他の遊びをすることもなく、日が沈むまでずっと武雄と和哉(青年)は野球をしていたのだった。