昼休憩を終えて精肉部に戻ってみると、休憩前とは打って変わって早くもひっくり返っていた。といっても予想されていた唐揚げ肉や豚小間ではないようだ。

「挽肉がもう売場にないんだよ。あっと言う間に売れちまって」

そう言いながら矢部さんはすごい勢いで粗挽き肉を仕込んでいる。店長によると、お昼前のテレビ番組で挽肉を使った料理が紹介されたらしい。

「この国産ロースも使っていいよ。今日はたぶんロース売れないしね」

佐藤主任はそう言って、矢部さんが操作するミートチョッパーにロース肉を投入した。こんな風に、お客様の知らないところで贅沢にバージョンアップされることもある。

「仁科さん、今のうちに一パックとっとく? 今日は超豪華ロース入りだよ。今晩ハンバーグなんてどう?」

「足りないんだってば! 仁科さん早くして!」

浮かれている佐藤主任とまとめて私も矢部さんに叱られた。

「さっき作った粗挽き、冷凍庫からもう出して挽いちゃって。唐揚げはまだ売場にあるから挽肉が先」

こういう時の売れ行きの読みはかもめ店勤続二十年の矢部さんの勘に頼るところが大きい。現場を支えているのはパートさんの底力だ。

鶏団子はシーズンオフなので試験以来練習する機会はないけれど、挽肉作業はあれから毎日やっているので、私もいくらか上達した。

ミートチョッパーは値付け機と並んでいて、私が挽肉作業を始めると大抵は矢部さんが横に来て詰めた端から値付けしていく。矢部さんの手を止めると舌打ちされるので、値付けリズムについていこうと挽肉を詰める私は必死だ。

「いつもより心持ち多めにして。今日は多めでも売れる」

そんな指示が来ると、自分もベテランになったようで嬉しくなってしまう。
その度に内心「こんな仕事で」と自分に突っ込むのだけど、一度も罵声を浴びず指示に応えられた日は帰宅する足はみっともないほど軽い。

「ちょっと! 多すぎだよ」

無傷で終わる日は滅多にないのだけど。