悟は家路に着いた。(うち)は昭和感(ただよ)う木造建築一軒家二階建てである。

悟は玄関の外でブレザーを脱ぎ、パンパンと制服をはたいて白く冷たい(ほこり)を落とし(うち)に入った。

「お帰りなさ〜い!」
「ただいま」

スリッパ音を廊下にパタパタと響かせながらエプロン姿で出迎えたのは悟の母である。

「母さん、今日は先にお風呂に入るよ。さっき転んで……」と悟が母に背を向け、濡れたズボンを見せた。

「あら、大変! すぐに準備するわね」

そう言って母は風呂の準備をしに行った。母の背を見つめていた悟は、緊張が解けたように肩の力を抜くと、急ぎ足で階段を駆け上がり、二階にある自分の部屋へ飛び込んで鍵を閉めた。

「もういいよ」

悟の腕にかかったブレザーの中から憲法色(黒色)の物体がひょこりと飛び出て、フローリングに足をついた。

「よっと」

出てきたのは烏の好盛である。好盛はバサバサと音が鳴るくらいに翼をはばたかせ、身なり整える。

「毎度毎度、ひやひやするぜ」