「え? 行商ですか?」


タイトルにもあるように、マスターから行商に行くから付いて来いと言われました。


「ああ、今回のはちょっと特殊でな。お前もそろそろ経験しておいた方が良いと思ってだな」


マスターがこんな事を言うのは珍しいですね。


いつもなら、他の村や町への行商なんて特に得るものはないって言うのに。


「ふはははははっ! この魔王も付いて行ってやっても良いぞ! そろそろ店番にも飽き飽きしていたところだ!」


カウンターの上に飛び乗り、マントをなびかせて魔王が私達を見下ろします。


「うーむ、お前を連れて行っても良いんだが、今回は未来に経験を積ませたいからな。それに、相手はちっとばかしデリケートだから、お前は留守番だ」


あっさりと断られましたね。


付いて行く気満々でカウンターに飛び乗ったのに、寂しそうに飛び降りて椅子に腰を下ろしました。


そして、最近趣味にしているリリアン編みを始めましたよ。


デリケートな相手なら、魔王がいると纏まるものも纏まらなくなるかもしれませんからね。


ここは、私が魔王の代わりに頑張るです!


「じゃあ、準備してきますね。何日くらいかかる行商なんですか?」


「あ、いや。今回のは日帰りなんだが……護身用のナイフは忘れるなよ」


なんだかおかしいですね。


マスターは、何かを隠していそうです。