「むっ! この声は……グレゴリー! グレゴリーか! 貴様、今までわしを探そうともせずに何をしていた!」


眠りに落ちる寸前で、隣の部屋から魔王の嬉しそうな声が聞こえて来ました。


また盛大な独り言ですね。


私は寝ようとしているのに、安眠妨害です。


「何? 村の外れの一本杉にいる? そうか、待っていろ。今行ってやる」


独語の次は深夜徘徊でもするつもりですかね?


これは道具屋の先輩として、きつーく注意しておかないといけません。


隣の部屋のドアが開く音が聞こえて、私の部屋の前の廊下を歩く音が聞こえます。


ギシッ、ギシッと、忍び足をするつもりすらない堂々とした歩き方です。


「ふははははは! ふはははははっ!」


いや、それどころか高笑いをしています。


「こんな夜中に……確か一本杉とか行ってましたね」


ベッドから起き上がり、ケープを羽織って私も部屋から出ます。


魔王に気付かれないように、静かに、ゆっくりと。


廊下を歩き、階段を下りると、すでに魔王は店から出たのか姿が見えません。


ふふん。


だけど私は、魔王がどこに行くか聞いていたのです。


そこに行けば良いだけですから、姿が見えなくとも関係ありませんね!


少し勝ち誇ったような笑みを浮かべて、私は店を出ました。