全体的に黒と紫の、やけにトゲトゲしたオブジェばかりの不気味な魔界を歩いていると、いよいよ魔王がいそうな場所までやって来ました。


闇へと続く階段を上れば……きっとその先に魔王がいるはずです。


「ふう、道具屋は無傷で来なければならないとは言え、さすがにここまで来ると魔物も一筋縄ではいかねえやつらばかりだな」


ああ、無傷でってのは、出張販売の鉄則ですね。






【出張販売について】

我々道具屋は、魔物が巣食う洞窟などで出張販売を行う事がある。
この際に、ダメージを負ったとしても、用意した道具をタダで使ってはならない。
自らが強くなければ、用意した道具を自らで使う事になり、商売をする前に道具が尽きるからである。
つまり、無傷で商売ポイントにたどり着けなければ、道具屋としては三流という事である。
伝説の道具屋スミス・シュナイダーは、いかなる場所でも無傷で商売を行えたという事は、もはや常識の域で広く知られている。
(「世界道具屋大全」より抜粋)




さて、階段を上りましょうか。


と、私達が階段に向かって歩き始めた時でした。


「待て、ここから先は行かせぬぞ」


頭の中に響く、不気味な声が聞こえて来たのです。