「今のところはありません。不利益が特に見当たりません故、親切心で叶えて差し上げます」
理想は矛盾までもを肯定にしてしまう。
「今城先生が構わないのでしたら、生徒でありガイドとして、お一つアドバイスを」
「なんだ? 生徒共の学校生活に、今のところ問題は生じてない」
「トイレの数が足りていません。列が出来ています」
「中のトイレの数は複数あるだろ。なぜ一人が入ると、その一人が出てくるまで待つ」
「そういうものです」
これまで先生がプレイしてきたゲームも、「トイレ」という空間一つにつき定員人数は一名だった。たとえ空間内にトイレの個室が六個あろうと、入れるのは一名のみ。現実の何倍もの早さで進む貴重な休み時間を、トイレに使う生徒達が何人もいる。
異なるのは、待っている生徒達が入り口を塞がずに列を作っているということ。以前のゲームワールドでは、中に入っていた生徒が入り口を塞いでいる生徒をすり抜けて出てくるというマジック現象が通常だった。そこが改善されただけ十分人間らしいと言える。