一階は、商談で訪れる客がひっきりなしに出入りしている。

ざっと見渡して、拓斗の知っている顔はなかった。

おかしいなと思いながら受付に歩いていくと、坂井が拓斗に気づいた。明らかに困惑した顔で「奥崎さん」と拓斗を呼んでいる。

その瞬間だった。

受付の陰からリュックサックが飛び出した。


「パパ!」


リュックサックが口を利いた、と思ったら、大きなリュックサックを背負った幼女だった。

年齢は幼稚園児くらい。右側の髪をゴムで結んだ幼女が拓斗を目指して飛び出してきたのだ。

見ず知らずの幼女による不意打ちだった。

鍛えていない腹筋に重い一撃を食らって、拓斗は尻餅をつく。

「痛ぇ……って、何だ!?」

顔を上げた見知らぬ幼女は拓斗の腹を踏み台にして、拓斗の首根っこに飛びついた。

「パパぁ!」

繰り返された幼女の元気な声がフロアに響く。受付も来客も、みな拓斗の方を凝視していた。

「ち、違う!」

倒れたままの拓斗が反射的にそう言うと、幼女が顔を上げた。

そのとき、初めて拓斗は幼女の顔をしっかり見た。

かわいらしい顔をしていた。いちばん印象的だったのは眉だった。やや垂れていて、泣き出しそうにも見える。女性なら保護欲求をかき立てられるのかもしれない。

目は大きくて二重。

肌は見るからにきれいで頬が柔らかそうだ。

まつげが長いのが人形のようだった。

それをいえば鼻もぷっくりした唇も、拓斗からしてみれば同じ人間とは思えないほど小さく、こちらも人形のようだった。


だが……初対面だ。


どう対応していいか迷っていると、かわいい幼女の顔の瞳に、透明な液体がたまる。

まさか、と思ったときには遅かった。

「うわあああああんっ!! パパなのに、パパなのにぃ~!!」

耳がきーんとした。周囲の白い目が痛い。そして、幼女とはいえ重い。

「えっと……誰?」
何とか幼女を抱えて拓斗は上半身を起こしたが、幼女は泣きやむどころか、ますますヒートアップ。
とうとう小さな拳で拓斗の胸元を叩き始めた。

「パパのバカぁぁぁ!!」

「マジかよ!?」

勘弁してくれ。泣きたいのはこっちだよ。

来客のみなさまが遠巻きにしながらも話しかけないで次々と会社に入っていく。

受付の坂井がどこかに深刻な顔で電話していた。