「だから、な、に、が?」

彼女はため息をつく。

「ねぇ、今なんの話ししてるのか、分かってる?」

分かってるよ、分かってるからこそ、その話しをしてるんじゃないか。

俺に戻ってきてほしいなら、他の1年と仲良くしてほしいなら、俺に対して何かの望みや希望があるのなら、俺は彼女に対しても、言いたいことがある。

「あのさ、俺って、奥川のことが……」

「あー分かった。もう、いいよ!」

彼女は突然、立ち上がった。

「まともに話しを聞くつもりもなければ、変えようっていう気もないじゃない。だったらもう、いいよ」

「ちょ、待てって!」

彼女は怒っている。

なぜだ? どうして? 

奥川は机にぶら下げてあった鞄を手に取ると、ふり向きもせず教室を飛び出した。

やばい。

マズい。

ここで彼女を追いかけて行くのは、とてもしんどい。

しんどいことだと分かってはいるけれども、きっと俺は今この瞬間は、追いかけなければいけないのだと思う。

だから俺は、今は追いかける。

重すぎる足が、自分でも走っているのか歩いているのか、それすらも分からないけど、とにかく俺は、廊下に出た。

「あたし、他に好きな人がいるの」

奥川は廊下で、振り向きざまにそう言った。

翻るスカートの裾が、とてもまぶしい。

彼女の手につながれた鞄が、くるりと一回転する。

「吉永も、部活、がんばって」

軽快な足音と共に、彼女のかかとの先が角を曲がって消える。

そんなこと、知ってたよ。

だけど俺だって、言いたいことはあったんだ。

あー、紙パックのジュース、机に置いてきちゃったな。

片付けとかないと、今度会った時に、また怒られる。

教室に戻って、並んでいた二つのそれを、手に取った。

奥川のパイナップルジュースは、まだ半分以上がそこに残されたままだった。

さぁ、理科室に行って、マシン作りの続きをしよう。