「ねぇ、鹿島くんの、どこが嫌い?」

俺はうつむいて、彼女の机の板にある落書きと傷の数を数える。

この溝にプリントとかのシャーペンの芯がぐさっと刺さったりなんかして、イラついたりしてんだろうな。

「別に、嫌いとかそんなんじゃないよ」

彼女の白い指が、俺の前で複雑に絡まっている。

人差し指がぴくりと動いて、彼女はまたため息をついた。

「じゃあ、なんなの?」

「うーん……。奥川は、どうしたいの?」

その言葉に、彼女は少し頬を赤くして、うつむいた。

言葉を探すように、目線が横に流れる。

「どうしたいって、私は別に……」

分裂した部を元に戻したいと思っているのか、それとも俺に、何か別のことをしてほしいのか。

奥川は俺に、何を望んでいるのだろう。

「奥川が何かしてほしいのなら、俺はしてあげるよ」

面と向かっては言えないから、思いっきりうつむいて言ってみる。

すぐに顔を上げるわけにはいかなくて、俺はそのまま顔を背ける。

思った以上に、声が小さくなってしまったような気がする。

「別に、あんたにどうこうしてほしいとか、私は一切ないんだけどね」

「どういう意味?」

「そのまんま。他に意味はない」

ずっと彼女のそばにいて、こうやって人目も気にせず、気さくに話せるのは、俺だからだと思ってるし、それは彼女にしたって、同じことだ。

俺はずっと、そう思っている。

「だとしてもさ、他になにか言うことあるでしょ」

「なにが?」

「なにか、言いたいこと」

じれったいのはいつものことで、数センチ単位の距離にある彼女の指先が、なぜか今日は、いつも以上に近く感じる。

「俺がさ、ずっとどう思ってるか、知ってるでしょ?」

そう言ってから、しばらく待ってみたのに、彼女からの返事はない。

「……。だから、今さらそんなこと言うのも、なんなのかなーなんて、思って」

俺はずっと待っていた。

待っていたからこそ、待たせてもいたんだと思う。

だからそろそろ、いいんじゃないかと、そう思ったんだ。