その日の夜、珍しく奥川の方から携帯に連絡が入った。

放課後に話しがあるから、教室に残っていてほしいという。

何の用だ。

鹿島とのことなら、話しは聞かないぞ。

なんだよ、しょうがないな。

俺は仕方なく、とりあえず素直に、彼女の言う通りにしてやる。

「だからさ、いつまでも意地張ってないで、仲良くやろうってこと」

俺はあらかじめ用意しておいた、奥川の好きな紙パックのパイナップルジュースに、ストローをさしてから差し出す。

彼女はため息をついて、それを受け取った。

「なんで? 吉永くんは、なんでそんなに、鹿島くんのことが嫌いなの? それとも、他にむかつく1年でもいるわけ?」

放課後の教室、俺は彼女のクラスの方に入り込んでいて、ちょっとアウェイ感があるけど、そんなことは気にしない。

俺は彼女の机に座っていて、奥川はその前の席に横を向いて腰を下ろし、こちらに体を向けている。

「そんなんじゃないよ」

「みんないい子ばっかりだよ? だってさ、自分、ろくにしゃべったこともないでしょ? なのになんで、イヤだとか分かるわけ?」

窓の外には、校舎から駆け出す女子生徒がいて、彼女は友達であろう他の女の子と並んで歩き出す。

このおしりの下の椅子は、普段奥川が座っている椅子で、いま肘をついている机の天板は、奥川が授業中に寝たりしているところなのかと思うと、ちょっとドキドキする。

「鹿島くんたちは、一生懸命やってるよ? そりゃ確かに、1年同士でごちゃごちゃすることとかが、全くなわけじゃないけど、そういうのってさ、やっぱり普通に、どこでもあることだと思うし」

だけど一番は、この俺の膝のすぐ真上にある机の中身。

探ってみたくて仕方がない。

「ねぇ、聞いてる?」

「聞いてるよ」

俺は雑念を振り払うべく、再び横を向いた。

ストローをくわえ、ぬるくなったフルーツ・オレを吸い上げる。

奥川の視線がじっと俺を見ていることに、くすぐったくなる。

こんなに堂々と、二人で話し合ってたりなんかしちゃって、いいんだろうか。

彼女はため息をつく。