「私たちはね、生徒会に出す遠征報告書をとりに来たのよ。あんたも予選会に行くつもりなら、一緒に提出した方がいいんじゃないの? 同じ部で2つもいらないし、どうすんのよ。あんたは行かないの? 行くの? それとも、一緒に書いて出してあげようか?」

「そんなの、お前らの好きに書けばいいだろ。勝手にしろ」

「あっそ。じゃあ分かった」

奥川は引き出しから用紙を取り出すと、鹿島の腕に手をかけた。

「行こ」

鹿島と目が合う。

奥川に引かれて、彼は俺に背を向けた。

廊下に出てからも、ちらりと振り返った茶色い頭と、もう一度目が合う。

「くそっ」

両拳を机に叩きつける。

その振動でマシンがわずかに浮き上がった。

カシャンと頼りない音をたてて、再びテーブルに着地する。

俺は一人で、こいつを作りたかったわけじゃない。

俺は一人で、ここにこもっていたいんじゃない。

夏休みには俺だって、1年のところに自分から行ったのに!

俺のを見せてやる代わりに、1年のを見てやればよかった。

これからはもう、無断で理科室に入って来ないことを条件に、見せてやればよかった。

二度と俺に話しかけるなって言って、適当に動かしてやればよかったんだ!

たたき割れる窓ガラスがあったなら、どんなにいいだろう。

投げつけられる工具があったなら、どんなにスッキリするだろう。

鹿島の言うセリフを、そのまま鵜呑みに出来るほど、俺はマヌケじゃない。

大きく息を吸い込んで、吐き出す。

もう試運転なんて中止だ。

完璧にやる気なくした。

俺は腹の中で渦巻く黒く泥臭い塊をぐつぐつと煮えたぎらせたまま、下校時間を迎えた。