「うわ、本当に一人で作ったの? 出来てるじゃない、凄いね」

ガラリと扉が開いて、入って来たのは奥川だった。

「これから試運転? やった。見る見るー。ね?」

奥川は後ろを振り返り、見上げたその先には、鹿島が立っていた。

「え、これから動かすんですか? 見たいです」

俺の指の当たっている金属の部分だけが、伝わった体温で熱くなっている。

その指をマシンから離して、俺はゆっくりと立ち上がった。

「もう今、終わったところだから」

「ウソばっかり。さっき階段を駆け上がって、うちらを追い越して行ったばっかりじゃない」

「もう終わったんだよ」

「えーいいじゃない。なんでよ。見たい見たい。見せて」

奥川の手が、黒いフィールドの上にのった。

その手はさらに、マシンの方向に伸びる。

「触るな!」

奥川はムッとして、鹿島を振り返った。

「なによ。ホント、ケチなんだから」

背の高い1年の後ろに隠れて、こっちをにらむ。

鹿島は少し離れたところから、おずおずと切り出した。

「あの、できれば、動くところを見せてもらえないでしょうか」

「やだね」

静まり返った教室に、溝カムで上下する的の、モーター音が響く。

その規則正しい動きに恥ずかしくなって、俺はスイッチを止めた。

「先輩の作ったマシンが、見たいです」

「俺は見せたくないって、言ってんだよ」

少しうつむいた鹿島の表情が、内心で俺をあざ笑っているかのように感じる。

「どうやって作ったんですか? 本当に一人で? 俺たちのなんて、4、5人がかりで、やっとだったのに」

4、5人? もっと仲間がいるだろ。

たとえ役立たずが数人混ざっていたとしても、1年だけで10人以上の部員が入ったはずだ。

「夏休み中、実は部長に、作り方のアドバイスを聞きに来たんです。教えてほしくって」

俺は顔を背けて、鹿島とは絶対に視線を合わさないようにしている。

何とかしてあの俺のかわいそうなマシンを、今すぐここから逃がしてやりたい。

「俺は、吉永先輩と一緒に、マシンを作りたかったです」

俺はワザと苦笑いをして、頭を横に振った。

「過去形かよ」

「ち、違います! 今からでも、お願いできるのなら一緒に……」

「もう遅い」

俺は振り返って、鹿島を見上げた。

「邪魔だから、帰れ」