俺はふと、枕元にあった携帯を手に取った。

連絡先のページを開き、画面をスクロールさせる。

サラサラと流れていくその先に、その名前を見つけた。

俺はぼんやりと、ただ光るその液晶の画面を見ている。

長さ2ナノ、幅0.5ナノの世界。

こんな小さな世界の中に、一体何があるというのか。

目にも見えないような分子の集まりが、俺を不安にも平和にもさせる。

固体と液体の間に存在する中間的な状態、液晶とはまるで今の俺みたいだ。

俺は周囲から、どんなふうに見えているのだろう。

視覚表示装置。

それ自体発光しない液晶組成物を利用して、光を変調させることにより機能している。

規則性は無くても、方向性だけは残っていて、自由に形状を変化させる液体でありながら、性質の異なる存在。

なんとなく中途半端で、そんなどろどろとした世界が、この透明なガラス板の下に広がっているのを想像しながら、俺は結局、そこに電話をかけることもなく、いつの間にか眠っていた。

気がつけば、夕方の5時を回っていた。

今日もまた学校にも行かず、何にもしないまま一日が終わってしまった。

そのことに、焦りと苛立ちとで、腹を立てる。

やばい、やばすぎる。

さすがに明日は絶対に学校に行って、作業を進めよう。

そう思った、その瞬間のタイミングで、着信があった。

山崎からだ。

「おう、なに?」

「お前ホントに大会出る気あんのかよ、何にもしてねーじゃん、なにやってんの。今日理科室に行ってさ、びっくりした。何にも出来てないんだもん、お前マジでヤバくね? 本気であきらめたの?」

「うるせー、俺にも色々あったんだよ」

どうしてこんなにもタイミングよく、都合のいいことを言ってくるのか。

「補習だろ? もう終わったし」

「今日は行こうと思ってたんだよ」

「思ってただけで、実際来てねーし」

「知ってるよ、俺行ってねーもん」

山崎は電話のむこうで「そうじゃねーだろ」と、つぶやいた。

お前だって、そうじゃねぇだろ。

俺がお前からほしいのは、明日から俺も手伝うっていう、その一言だけだ。