終業式が終わって、ついに夏休みが始まった。

俺は誘われた通り、補習開始までの一週間を、渡部と遊びまくった。

渡部の人気運動部としての、サル部の幅広い人脈を生かし、男だけじゃなくて、そこには女子も加わった。

カラオケに行って、駅前の巨大ショッピングモールをぶらぶらと歩いた。

体力を持て余した健全な渡部たちは、普段の朝練の習慣を崩したくないと、補習の始まる1時間も前から、学校近くの公園に集合をかけた。

そこでサル部軍団のくせに、なぜか持参してきたおもちゃのプラスチックバットを振り回す。

ボコボコにへこんだその短すぎるバットは、落ちていたペットボトルの蓋を打つのに、ちょうどよかった。

「なんでこんなバット持ってんだよ」

「え? 弟の」

渡部は笑って、その赤いバットを振った。

ペットボトルの蓋のいいところは、飛んできたのを受け取れなくてもいいし、転がってもいかないところだ。

俺は拾った蓋を、投げ返す。

上手く投げられなくてもいい。

だってそれは、ペットボトルの蓋だから。

投げられた蓋を受け取り損ねた渡部は、笑っていた。

「お前、あんがい上手いよな」

そりゃもちろん、運動部の連中には、かなわないことは、分かっている。

お世辞でもそうやって言ってくれることは、うれしかった。

「そんなこと、あるわけねぇだろ」

白い蓋は、カンと安っぽい音をたてて、空に舞い上がる。

実際に補習が始まると、それはまぁ退屈で退屈で仕方がなかった。

渡部たちは遅刻寸前でやって来て、教室に入るなり寝ているし、俺は先生の授業に全くの関係ない無駄話に、内心で突っ込みを入れ続けていないと、前も向いていられなかった。

そのくせ宿題はたっぷり出され、俺は渡部たちと協力して、それを均等に分割し、解いたうえで、その内容を画像で送り合い、しのいだ。

「じゃあな、お疲れ」

そうやって、一週間の特別な時間が終わった。

終わってしまうと、実にあっさりしたもんで、渡部たちはまた、サル部で汗を流し始める。

俺は普段やらない早起きと運動が続いたせいで、3日は家に引きこもり、自室のベッドでごろごろしていた。

あぁ、マシン作りに行かないとな。

覚悟を決め、5千円を出して買った専門書は、結局テスト前までに開いたページで止まっている。

買って来た資材は、全部学校の理科室に置いてきたから、家でどうこうすることも出来ない。

行かないと。

なんでこんなことに巻き込まれたんだろう。

本当に面倒くさい。

鹿島なんて奴が現れなかったら、今頃はのんびりと、平和な夏休みを送っていたに違いない。

俺は山崎と気まずくなったりなんかしなかったし、マシン作りとか、こんなに面倒くさい思いもしなくてもよかった。

本当にもう、あきらめようかな。