俺はネットで適当に注文した、シーケンスに関する専門書を読み始めた。

もちろん一時たりとも時間は無駄に出来ない。

学校にも持ち歩き、電車でも、休み時間でも、それを読む。

シーケンスとは「順番に並んだ」という意味だ。

順番通り、あらかじめプログラムされた動作を、プログラム通りに動かす。

これをシーケンス制御といい、これ自身で何かを直接制御したりコントロールしたりするわけではない。

つまり、計算通り、予定通りに、動く、ということだ。

俺の計画ではこうだ。

夏休み、とにかく集中してマシンを完成させる。

そうだな、二学期が始まる直前くらいに、一度鹿島たちのマシンと対戦してもいいな。

実戦をしてみれば、より問題点も明らかになるし、相手のマシンも分かる。

それはお互いにとって、メリットしかないだろう。

その後は、大会までの微調整と、とにかく操縦訓練だ。

夏休みは朝から登校して、一日中、学校にこもろう。

鹿島たちはどうするかな? 

まぁ俺には関係ないか。

一人でこっそり完璧で最強なマシンを作り上げ、実戦でボコボコにしてやる。

待ってろよ、俺の真の実力とやらを見せてやろう。

俺は授業の合間の休み時間にも、その専門書を読みあさる。

ふと顔を上げたら、山崎と目があった。

彼は一瞬立ち止まって、何かを言いたげにこっちを見ていたけど、俺はすぐに視線を本に戻す。

知るか、あんな奴。

俺は許してないからな。山崎が自分から頭下げて来ない限り、俺は許さない。

「お前さ、期末テストの勉強しなくていいの?」

「は?」

「部活動も、テスト休み期間に入っただろ。いいのか」

テスト勉強はテスト勉強で、これとはまた、話しが別だ。

やらなきゃいけないことは、分かっている。

「テストから逃げんなよ。俺たちは一旦マシンのことは忘れて、テスト勉強に集中しようって話しになったぞ」

「俺たちって、鹿島の提案だろ?」

「まぁな」

俺は読みかけの本をバタンと閉じた。

「だけどそれには、全員で同意したぞ」

「お前たちと俺を一緒にすんな!」

そう言って俺がにらみ上げたら、山崎はぼりぼりと頭を掻いた。

「ま、いいけどね」

立ち去る山崎の後ろ姿を見送り、俺はさらに鼻息を荒くして、本にかじりつく。

俺はテストから逃げてるんじゃない。

あんな言い方をされたら、まるでテスト前に急に部屋の掃除を始めるヤカラと、同じみたいな扱いじゃないか。

テストが大事なのは分かってるよ。

だけどなぁ、今しか出来ないことってあんだろ。

俺はテストが終わったら、すぐにマシンのプログラミングに取りかかれるようにと、このシーケンスの序章っていうか、触りの部分だけ読んで、終わりにするつもりなんだから。

そんなこと、言われなくても分かってるよ。

余計なお世話だ。

俺は学校のテスト勉強の合間にも、こうやって勉強してんだ。

なんでこんなに忙しくしてる俺の状況を、分かろうとしないんだろう。

余計なおしゃべりをしている暇なんかないんだから、話しかけないでほしい。

おかげでやる気なくした。