俺は大きく息を吸い込んでから、ゆっくりと吐き出す。

いつからこんなにも、遠慮がちになったのだろう。

言いたいことがあるのなら、はっきり言ってしまえばいいのに。

それでどうなるかなんて、結局はやってみないと、分からないじゃないか。

そうやってもう、ずっとずっと自分に言い聞かせながら、一歩を踏み出せずにいる俺は、弱いとか、そんなんじゃない。

負けたくないとか、失敗したくないとか、そんなことでもない。

間違えたりして、空気読めない人間だと、思われたくないからだ。

それ以外に、理由なんてない。

言えないんじゃない、言わないだけだ。

もう一度奥川を見た。

鹿島にウザがられているのが、分かってないのかな? 

イタイ女だ。

俺は彼らに、見つかってもよかったし、見つかりたくもなかった。

校舎の外へ、一歩を踏み出す。

俺はそのまま、普通に右足と左足を交互に出し、普通に左右の手を自然に振って、普通に歩いた。

普通に最短距離を通って、普通にあの二人の様子を気にすることもなく、普通に気づいてもいないような感じで、普通に通り過ぎる。

アイツらは俺に、気づいたかな? 

気づかなかったかな? 

鹿島はどうだか分からないけど、奥川は気づいたような気がする。

後から、慌てて追いかけてきたり、しないかな。

学校の敷地を出る頃には、すっかり夕方になっていた。

真っ赤に焼けただれたような、燃えるような空だ。

後ろを振り返ったって、誰も追いかけてきたりなんかしていないし、この世界で、誰も俺を見ていないことは、分かっていた。

駅までの道を、ゆっくりと歩く。

そうだ。

奥川とは、距離を置こうと約束したばかりなのを、忘れていた。