「よ、部長さん、最近どう?」

そのタイミングを見計らったかのように、山崎が入ってくる。

山崎は入ってくるなり、パソコンの前で動画を見始めた。

「どうもこうも、お前には関係ない」

俺はそんな山崎を無視して、作業を始める。

本当はどうしていいのか、全く分かってないのに、分かっているフリをする作業だ。

「何しにきた?」

山崎が来てから、かれこれ1時間近くは過ぎていた。

俺は黙々と、ゲームの爆発音と、実況者の甲高い声を背景に、1ミリも進まない作業を続けている。

「え? なに?」

山崎は、パソコン画面を見ながら、ガハハと笑った。

今日は1年のところに、行かなくていいのか?

「ねぇ、1年の体育館倉庫って、暑い?」

「エアコンつけてもらった」

「あっそ」

ゲーム効果音の、激しい打ち合いの音に続いて、すぐに自分の操作するキャラクターがやられた時の、終了音が聞こえた。

画面の向こうで生配信中のゲーム実況者は、再起をかけて再び戦場へと向かう。

長い長い独り言で自分を励まし、鼓舞する言葉が、延々と垂れ流されている。

彼はたった一人でも、とても楽しそうだ。

「ねぇ、あのローターって、どうやって制御してんの?」

実況者の悲鳴が、音割れするほどの勢いで、スピーカーから響いた。

山崎は腹を抱えて、笑い転げている。

俺はようやく出来上がった骨格に、シリンダーを取り付けた。

これで何とか、体裁だけは整ったかな。

一度だけ動かしてみたピストンは、カシャンと機嫌のよい音をたてた。

「あ、意外と出来てんだ」

山崎はようやく、動画視聴をやめる気になったらしい。

今度はネットから検索した、お気に入りのバンドの曲を流し始めた。

「うるさいよ」

「じゃあ消す?」

ネットから流れる電子の音楽が消えたら、リアルで正しい高校放課後生活BGMに戻った。

山崎は自分の耳に、携帯のイヤホンを差す。

「1年と、なんかあった?」

思い切ってそう聞いたのに、彼の耳には届かなかったらしい。

窓の外を眺めながら、一人たたずむ山崎に、背を向ける。

今度こそ、俺は本当に作業を始めた。