「で、鹿島は、何に困ってるわけ?」

俺はパソコンの前に陣取った、山崎に声をかけた。

「ん? あぁ、何かよく分かんないけど……」

山崎はこのパソコンからアカウント登録した、オンラインゲームのサブ垢で、ログインボーナスを受け取るのに忙しい。

「何か、前に調べた資料で、見たいのが見当たらないって、騒いでたよ」

そのままゲーム画面に移動し、デイリーミッションをこなしている。

久しぶりのログインだったから、やることが多い。

「うわ、なんでこんなレアアイテム、こっちで出るんだよ。本垢に移してー!」

これ以上のことを、突っ込んで山崎に聞くのは、『野暮』ってヤツのような気がする。

ワザと話題を外しているのか、でも俺にあれこれ聞かれたくないのなら、さっさと出て行けばいいのに、それでもここにいてぐだぐだしてるのは、なんでだろう。

「お前、戻んなくていいの?」

「うん、戻るよ」

椅子に腰掛けて、ゲームに夢中な山崎の姿をぼんやりと眺める。

こいつは、なんで今ここにいるんだろう。

俺は一体、何をやってるんだろう。

マシン完成のメドなんて一切立っていないし、本当に自分一人で全てを完成させる自信なんて、どこにもない。

手伝ってもらえるなら手伝ってほしいし、仲間がほしいし、一人じゃ淋しいし、この先だって、何から手をつけていいのかも分からない。

「なぁ、お前、本当に戻らなくていいの?」

「ん? もう行くよ」

彼は、タンタンタンと、小気味よくリターンキーを連打してから、立ち上がった。

「じゃあな」

実にあっさりと、山崎は本当にゲームだけを済ませて帰る。

静かになった理科室の窓からは、紅い夕日が差し込んでいた。

俺は山崎に、奥川と1年のケンカの原因を聞きてみればよかったと、後悔した。