ふいに廊下からにぎやかな足音が響いて、理科室の扉が開いた。

声が聞こえていたから、来ているのは鹿島たちだと分かっていたけど、もうなにも誤魔化したり隠したりする気分にもならなかったから、雑然とした作業台の上を、そのままにしている。

「こ、こんにちは」

入って来た鹿島は、俺を見るなりぎこちなくそう言った。

「……なに?」

「いえ、ちょっとお伺いしたいことがありまして……」

彼の視線が、散らかった作業台の上をさまよう。

俺のマシンの進行具合が気になる? 

なんにも進んでないから、心配するようなことは何にもないぜ。

安心しろ。

「どうかした?」

立ち上がって、工具を棚から取り出すフリをしながら、背を向ける。

鹿島の顔が、コイツはやっぱり自分の敵ではないと、俺に対するあざけりの表情を浮かべ、バカにするような笑みを浮かべながら、安心する瞬間を見たくはなかった。

「あ、あのですね……」

背を向けている俺の後ろで、相変わらず遠慮がちな声をつまらせる。

「ちょっとパソコン貸して!」

その鹿島の後ろから、山崎が顔を出した。

他の1年どもは、鹿島の背中に隠れるようにして大人しく横一列に並んでいる。

もちろん愛想笑いなんだろうが、山崎の登場にムッツリとした鹿島とは対照的に、他の1年どもの、にやついた表情がしゃくに障る。

山崎はテーブルに開きっぱなしにしておいたパソコンの、マウスを動かした。

「ねぇ、純、どれ?」

純って誰だ? と思ったら、鹿島が動いた。

俺の真横を通り過ぎて、山崎の隣で画面を見る。

「ちょっと貸してください」

山崎の背中から、マウスを動かして何かをしている。

純か、純ねぇ~。

俺もそこをのぞきこんだ。

カチカチという音をさせて、鹿島はフォルダーを順番に開いていく。

何を探しているんだろう。

そう思っていたら、俺のマシン制作のために集めた資料フォルダーを、彼は偶然開いた。

「あ、あった……じゃ、ないですね」

鹿島はすぐにそれを閉じる。

俺は俺のマシンの秘密を暴かれたような気分になる。

鹿島の顔が赤くなって、ますます腹が立つ。

「あ、これです。ありました」

鹿島が探していたのは、自分たちのマシン作成のために集めた資料フォルダーだった。

そんなものがこのパソコンの中にあったんだ。

それを知ってたら、さっさと見てやったのに。

鹿島はUSBを差し込むと、そのフォルダーを移動させる。

俺が一度も中を覗き見ないまま、その貴重な資料集は移動させられてしまった。

「何か困ってたの?」

「ちょっと。前に調べたので、もう一度確認したい内容があったので」

「言ってくれれば、送信したのに」

そんなこと、俺に頼むわけがないよな。

何を考え、何をしようとしているのかが分かるような大切な資料だ。

マシンの性能や中身の秘密を、俺になんかバラしたいワケがない。

そういえばコイツら、奥川とケンカしたんだっけ?