「そりゃね、話しにくいのも分かるよ。遠慮しちゃうのも。だけどさ、私は別にそういうの、気にしてほしくないし、気にしたくないから……」

ふいに言葉が途切れて、また静かになった。

ゴトリという音がしたのは、俺がパイプを机に置いたせい。

彼女の口から、ため息がもれた。

「何でこんなんなんだろ。上手くいかないもんだよね」

座っていたテーブルからひょいと飛び降りると、開かない窓に手をついた。

「私の何が悪いのかな。それが全然分かんない」

そこからまた動かなくなった彼女の、背中を見つめている。

近いようで、遠い背中。

奥川はいま、一人で何かを考えているんだ。

そこに俺は入っていくことが怖くて、踏み込めば何もかも終わるような気がして、それが触れたくても触れることが出来ない俺の、ちょうどいい言い分けにもなっているような気がする。

「誰かと、ケンカしたの?」

「……。そう」

静かにじっと考える彼女とはうらはらに、俺の頭は猛スピードで高速回転を始める。

ケンカをした相手は誰か、何でもめたのか、それはいつなのか。

それで奥川は、何を思い、どうしたいのか……。

奥川は窓枠にもたれて、じっと外を見ていた。

それを聞き出さないことには、俺に返事のしようがない。

「何が、原因?」

とにかく彼女の機嫌を損ねないように、地雷を踏まないように、何度も何度も学習を重ねているはずの、一度も成功したことのないルートを、今度こそ探り当てに行く。

そうやって聞いたのに、彼女は横を向いたままで、動かない。

当たりか外れか分からない道を、慎重に進む。

「何か、言われたの?」

俺はいつだって、彼女の味方にあるし、そうなるつもりでいる。

何か一言でも、言葉を発してくれたのなら、俺は無条件で彼女の意見に全面的かつ、全方位的に賛同する。

そう、これはある意味チャンスなのだ。

彼女からの、厚い信頼を得るための。

「い、1年、か、鹿島?」

「もういい」

奥川は急に振り返ると、何をするのかと思えば、部のパソコンをのぞき始めた。