昼休み、最近はすっかり疎遠になった山崎が、隣で他の男子と騒いでいた。

何だかじゃれあっていたのが、ふと目が合う。

「1年のマシンは、うまくいってんの?」

そう言って、俺は口に紙パックのストローをくわえ直した。

ちゅーっと最後の一息を吸い込む。

「そこそこね。お前は?」

山崎は立ち上がると、俺の横にあった椅子に座った。

机に座っている俺は、山崎の頭頂部を見下ろす。

「うん、こっちもそんなかんじ」

山崎の大きな目が、ちらりとこちらを見上げた。

俺は同じ目線で座り直す。

「設計図通りに、うまく行ってる?」

「そこは微妙に調整しつつ、何とかやってる」

「やっぱそうかー」

それを聞いて、俺は少し安心した。

そんなすんなり、行くはずないよな。

「あいつの設計図、すげーのにな」

俺がそう言ったら、山崎はちらりとこちらを見た。

「お前はどうなんだよ」

全然上手くいってないとは、口が裂けも言えない。

「まぁ、それなりに」

「へー」

両手を組んだ山崎の指がもぞもぞと動いていて、こういう時は、何か言いたいことがあるのに言えずにいる時のクセだって、知ってる。

「今でこそさ、はっきり学年とか年齢とかで分かれてるけどさ、大人になったらそういうのって、関係なくなるだろ?」

ふいに山崎が言った。

俺は飲み終わったストローの端を口にくわえたまま、その先をなんとなくガジガジかんでいる。

「なんだっけ、年功序列の反対」

「成果主義?」

俺はようやく、ストローから口を離した。

「もうそういう時代なんだよねー。でもまぁ、よく考えたら、運動部あるあるってやつかな」

「いま1年って、何人くらいいんの?」

「15人? そんくらい」

「こないだ、谷先輩が来てくれたんだ」

山崎の顔が、パッと明るくなった。

「うおーなんだよ、教えてくれよー。元気そうにしてた?」

ようやく笑顔が戻ってきた。

それで山崎はうれしそうに、体育館での様子を話し始める。

1年同士はなんだかんだで、みんな仲がいいこと。

だけど、鹿島以外は、あまり知識がないこと。

手先はそこそこ器用で、ちゃんと鹿島を手伝うし、やる気もあること。

ニューロボコンに向けた気合いだけは、十分なこと。

「まぁ、それはそれで、どうなのって思うこともあるけど、概ねいい感じだよ」

「注意とか、アドバイスみたいなことは、してんの?」

そう言うと、山崎はふっと笑って、首を横に振った。

「ま、そういうのって、あんまやりすぎると、嫌われちゃうからねー」

結局は、山崎も小さな体育館倉庫の隅っこで、運び込まれた漫画を読みながら、座っているだけらしい。

なんだよ、理科室にいた頃と、ほとんど変わりないじゃないか。

それでもこっちに戻ってこないで、体育館にいるのは、なんでだろう。

俺のことが本当に、嫌いなわけじゃないだろうし。

そりゃ人数多くて、「イケてるメンバー」の方に入ってた方が、いいよな。

1年だけど。

戻ってこいよって、言いたいけど、俺の方からは言えない。